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長崎経済研究所

集落の維持と再生について考える(2)~島根県の中山間地域の事例紹介~

 前稿(※)では、農山村地域の集落を維持・再生するために、「集落生活圏」の生活支援サービスをつなぎ合わせて住民主体による新しい地域運営の仕組みを形成する「小さな拠点」づくりが進められていることをレポートした。

 本稿では、その取組みが進んでいる島根県の中山間地域の事例を紹介したい。

  ※集落の維持と再生について考える(1) | ながさき経済web (nagasaki-keizai.jp)


1.島根県雲南市 ~小規模多機能自治の取組み~


 面積の90%を中山間地域が占める島根県は、各地で小さな拠点づくりが進んでいる。このうち出雲空港から車で20分ほど内陸に入った田園風景広がる雲南市では、「小規模多機能自治」として、概ね小学校区域で自治会、消防団、商工会、文化サークル、保護者代表、女性グループ、高齢者の会などを連携させ「地域自主組織」が編成されている。これら組織は「交流センター(※)」を活動拠点として、直接雇用の事務局職員を中心に福祉や防災などの課題解決に取り組んでいる。

 従来は地域課題を解決するには住民が行政に対応を要望するのが一般的であったが、2015年に各地区と市との間で基本協定書が結ばれ、そこには地域自主組織が交付金や助成金、自主事業などをもとに「地域の主体者」としての役割を担うことが明記された。

 ※雲南市では2010年度から、これまで生涯学習や社会教育事業を主体に取り組んできた「公民館」を「交流センター」と改称し、地域づくりや地域福祉も含めた多様な活動を展開できる地域の活動拠点として利用できるようにした。


【事例 1】「躍動と安らぎの里づくり鍋山(以下、躍動鍋山)」(雲南市三刀屋町、秦美幸会長、菅澤邦次事務局長)


(1)概要

 雲南市鍋山地区は典型的な中山間地域である。市街地まで約10km(車で約15分)の地にあるため就労しながら水田耕作を行う兼業農家が多い。人口1,260人、高齢化率約47.6%(2022年)。同市の地域運営組織としては平均的な人口規模といえる。

 躍動鍋山は2006年に発足。人口の自然減に対する危機感から2008年に行った住民意向調査の結果を住民や行政に還元し課題を浮き彫りにして、その解決に向けて行動してきた。


(2)活動内容

①モットーは「無理をしない」

 躍動鍋山は、地域福祉など本当に住民に必要なサービスを提供するために、運動会や文化祭など慣例行事の見直しにより住民の負担を軽減してきた。また、若い人は仕事で忙しかろうと草刈りなどへの参加を無理強いしないことにしている。相応の年齢や立場になったときに躍動鍋山の活動を引き継いでくれればいいという考え方である。

鍋山地区 中央の黒っぽい屋根が交流センター

出所:「躍動と安らぎの里づくり鍋山」

②まめなか君の水道検針

 2012年から水道検針事業を受託している。受託料収入を得られるのはもちろんだが、検針に訪れた際に「まめなかね~?」(=元気ですか)と声を掛けることで住民同士が交流しお年寄りの見守りにもつながることが大きな利点となっている。2022年4月時点で検針口数515口(391世帯)、年度の受託料は約97万円。検針員は14人で時給860円。声掛け対象者は60人であった。

まめなか君の水道検針の様子

出所:「躍動と安らぎの里づくり鍋山」


③温泉施設「深谷温泉 ふかたに荘」の指定管理

 管理団体であった自治会組織が高齢化したことから、躍動鍋山が2021年から指定管理者となった。住民との協働により施設周辺でイベントや地元野菜の販売会を催すなど「地元手づくり温泉」として、住民の健康促進や観光資源の維持を目指している。2021年度の収入は640万円で躍動鍋山にとって最も大きな事業である。


④安心して生活できる地域づくり

 生活支援の事業として、医療ボランティアチーム「ちょんてご」(ちょんぼし=少し、てごする=手伝う)による巡回健康チェック、自家用有償旅客運送事業「よりそい号」による交通支援、草刈りや除雪などを支援する「安心生活応援隊」などがある。2021年7月の豪雨の際には日頃の避難訓練や安否確認訓練が役立った。また、「交流センター」で放課後に子どもたちを預かる「子ども教室」など子育て支援も行っている。


⑤事業継続のために

 手掛ける事業は22にも及び、予算規模も2007年の3百万円から2023年には41百万円(自主事業32百万円、交付金・助成金事業9百万円)に拡大した。雇用が創出され、生じる人件費のほとんどが住民にまわっている。また、新たなに農業・農村環境の維持とその活用を目指し、農業団体などとともに農村RMO(※)の形成にも取り組み始めている。

 このように事業が拡大し、事務局の6人を含めた職員数は29人にのぼる大所帯になってきていることから、これを継続していくために法人組織への転換も検討中である。 

 ※農村RMOとは、地域運営組織(RMO=Region Management Organization)のうち農用地保全活動や農業を核とした経済活動と併せた活動をするもので、農林水産省がその普及啓発を進めている。


【事例 2】「波多コミュニティ協議会(以下、協議会)」(雲南市掛合町、木村守登会長)

(1)概要

 同市波多地区は、鍋山地区の南西、最寄りの支所まで約16㎞の中山間地域にある。その昔宿場町だった面影を残しているが、いまでは人口264人、124世帯(2022年)、小学生以下の子どもは約10人で高齢化率58%と少子高齢化が進んでいる地域である。

 協議会(1982年設立)は、地区の保育園、中学校に続き小学校も閉校したことに危機感を抱き、2010年に「地域づくりビジョン」を策定し対策に取り組んだ。


(2)活動内容

①「はたマーケット」

 この協議会の注目すべき取組みは、「はたマーケット」だ。2014年に地区唯一の商店が閉店するにあたり、市から全日食チェーンの紹介を受け、市の許可を得て交流センター内に開設したのである。補助金・借入金、住民や地区出身者からの寄付金で資金調達した。

 その特徴は大手スーパー並みに価格が安い点である。これは、同チェーンから仕入れていることもあるが、交流センター職員が店員を兼ねることから経費(家賃、人件費など)を抑えられるためである。食料品や日用品など約800品目。1日平均30人ほどの来店があり電子マネーにも対応。コロナ前には年間約12百万円の売上があった。

はたマーケット   

出所:「波多コミュニティ協議会」

②「波多温泉 満壽(まんじゅ)の湯」の指定管理

 協議会は市の指定管理を受け温泉施設「波多温泉 満壽(まんじゅ)の湯」も運営している。入湯者数が年間約2万人にのぼる大きな事業であり、雇用の創出(現在11人)やまちの賑わいに貢献している。施設内の食堂は「はたマーケット」から食材を購入している。


③地域内交通「たすけ愛号」

 協議会では、移動手段のない高齢者などのために無料送迎をしており、「はたマーケット」への送り迎えその他で年間1,500~1,600回利用されている。車を所有するにあたり協議会は認可地縁団体として法人格を取得。また、出身者70名ほどの寄付により別途、福祉車両を購入しており足腰の不自由な住民に喜ばれている。


④旧小学校が地域の拠点

 活動の拠点は旧波多小学校を利用した「交流センター」である。協議会が市から指定管理を受けており、職員6人の人件費は主にその交付金と事業収入で賄っている。ここには「はたマーケット」のほかにも、家庭で使われなくなった健康器具を再利用した「スポーツずむ(ジム)」や談話室があり交流会も催されて地域住民の集いの場になっている。

 また、旧校舎であることから、いくつもの部屋があり、厨房、トイレ、寝具もそろっているうえに運動場もあるため、災害避難所としても十分な機能を備えている。住民にとって、日常生活でも緊急時でも「何かのときは交流センターへ」と頼りになる存在である。

波多交流センター(コの字型屋根)周辺   

出所:「波多コミュニティ協議会」

⑤活動を継続するために

 協議会は、将来のプランも大事だが、ここ5~10年を見据えながら、出来る人が、出来ることを、出来ることだけ、無理せずにやろうとしている。今、住民たちが維持再生の活動を地域の若者や子どもたちに見せ、波多出身者に知らせることが将来への第一歩になるという考え方で取り組んでいる。


2.島根県飯南町 ~公民館の範囲を単位とした取組み~

【事例 3】「わっしょい!志々会」(島根県飯南町、藤原澄雄会長、伊藤志津江志々公民館長)

(1)概要

 島根県の飯南町においては、公民館活動が根付いていることから、公民館の範囲を単位とした地域運営の取組みが行われている。

 飯南町は、雲南市の南西、中国山地の脊梁部に位置する高原地帯である。志々地区も約90%を山林が占める山間の集落で、人口は約500人、高齢化率は約50%。


 志々地区には5つの自治会があるが、人口減少から単独の活動には支障が出てきていた。そこで、飯南町が2013年に公民館の範囲を単位として地域の課題に向けた取り組みや活性化につながる事業を支援する「住みよい地域創造事業制度」を新設したのを契機に、5つの自治会が結束して任意団体「わっしょい!志々会」を設立。アンケートや座談会などにより住民の意見を集約して「志々の未来予想図」を策定し、解決に向けて取り組んでいる。

 事務局は、役場の支所と公民館が入った「さつき会館」に設置した。公民館館長・主事、役場職員、集落支援員が連携しながら公民館活動の上に地域再生の取組みを加えていった。

(2)活動内容

①お助けショップ「ささえさん」

 2016年に地域の商店が閉店したため、「さつき会館」の一角に「ささえさん」を設置。利用者の要望を聞きながら揃えた商品は約700点以上にのぼり、生活に必要なものはここで賄うことが出来、送迎もある。

 職員が近隣市の商店で購入したものを、ほぼそのままの価格で販売しているので利益はない。ただし、施設内にあることから家賃などの経費を抑えることが出来ている。利用者数、売上とも年々増えていて2022年度には4,500人で420万円(月平均35万円)を超えた。

②地域の交流サロン「陽(ひ)サロ2号店」

 高齢者を中心に手料理を味わいながらお喋りを楽しむ「陽サロ2号店」は2016年4月にオープンした。月2回開催で参加費は1回200円。コロナ前には1回平均46人が参加していたが、2022年度は平均20人に減少している。それでも2023年5月には延べ来店者が6,000人を突破した。時折子どもも参加する、地域の交流の場であり見守りの場でもある。


陽サロ2号店の様子

出所:「わっしょい!志々会」


③オーダーメイドの定住助成

 活動の目標の一つは「若い人が生計を立てることができる」まちづくりである。「わっしょい!志々会」では町の助成金を基にした「わっしょい志々会オーダーメイド助成金」のパンフレットを作成している。いち集落でこのような取組みを行っているのは珍しいものと思われる。

オーダーメイド定住助成金のパンフレット

出所:「わっしょい!志々会」


④声掛け訪問

 従来民生児童委員のみで行っていた高齢世帯などへの声掛け訪問だが、2015年からボランティアの協力を得るようになった。2023年9月現在64世帯81人に対してボランティア30人(民生児童委員含む)と事務局5人(2022年9月現在)。ボランティアは訪問対象地区の人(心安い・変化がわかる)と他地区の人(新しい交流が生まれる)の2人一組で編成し、月1回訪問する。ボランティアにとっては地域と人を知ることにもつながっている。


「支える人 支えられる人 みなボランティア」

 「わっしょい!志々会」が誇るものはボランティアである。「ささえさん」内に貼ってあるこの言葉は、住民同士が無理のない形で助け合おうという考え方である。もっとも、支える側のボランティアも高齢化していくことを考えると、後継者の育成が必要である。幸い地区内のIターン者や関係人口と呼ばれる人たち、女性、若者、子どもが活動に参加しており、彼らがこれからも自分事として住みたくなるまちづくりに取り組むことが期待される。

3.事例から見える集落の維持・再生の取組みに必要なこと


(1)住民参加と活動拠点

 まず、地域住民が自分事と認識することが必要である。いずれの事例も、アンケートなどを通して住民の要望などをあぶり出し、それを還元(共有化)して解決に向けて取り組んでいる。サービス提供者にも利用者にも、皆でまちを存続させようという姿勢がみられる。

 また、組織に事務局があることも共通している。そこには常駐する職員がいて、市役所・役場の支所としての機能、買い物支援や交通支援、子育て支援、災害対策など諸々の活動の拠点となっている。住民にとって、頼れる人と場所があることの意義は大きい。

(2)担い手不足

 共通した課題としてもっとも大きいものは担い手不足であろう。活動の柱となるスタッフが固定化され後継者の育成が進まず、活動を支えているボランティアも高齢化しているという問題がある。各組織とも、活動を地区内外の人に広報することで、住民はもとより関係人口やUIターンなど新しい風も取り入れようとしており、さらには、子どもたちが地域に愛着を持って将来の担い手となってくれることを期待している。

(3)活動を継続するコツは「やれることをやる」

 そのような課題を抱えながらも活動はしっかりと継続されている。そのコツは、住民の要望を細目に収集し、時間を置かずに答える(必要に応じて行政等に相談する)ことであろう。そこには、普段からスタッフと住民の信頼関係を築いておくことが大切だ。そして、活動するにあたっては、サービスを提供する側も利用する側も楽しむこと、無理をしないことが活動継続の一番の秘訣といえるであろう。

(2023.10.30 宮崎 繁樹)


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