ながさき経済web

長崎経済研究所

集落の維持と再生について考える(1)


はじめに

 人口減少が続くわが国においては、地域の活力低下を食い止めるため様々な対策が講じられている。しかし、それが奏功して再生する地域もあれば、過疎が進み集落としての機能を果たすことが難しくなっているところもある。そこで本稿では、集落の維持・再生について考えてみたい。


1.過疎の現況

(1)過疎市町村の現況

 わが国の過疎市町村の数は885。全国1,718市町村の51.5%にあたり、そのうち過疎区域の人口は約1,165万人で全国の9.2%、面積は国土の63.2%を占めている。もはや過疎は一部地域の話ではなく国全体の問題となっている(図表1)。

 長崎県内の過疎市町は15。全21市町のうち71.4%にあたり(該当しないのは大村、長与、時津、川棚、波佐見、佐々の6市町のみ)、そのうち過疎区域の人口は約37万人で全県の28.3%、面積は県土の71.7%を占める。長崎県においてはより身近な問題といえるであろう。


(2)過疎集落の現況

 集落ベースの状況をみてみよう。「過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査」(総務省と国土交通省の合同調査、2019年)によると、過疎地域の集落数は全国6万3,237か所、その人口は1,035万7,584人、1集落当たりの平均人口は約164人である。

 前回調査(2015年)時点で既に過疎地域であった集落の経年変化をみると、集落数は0.6%(349か所)減少、人口は6.9%(72万5,590人)減少。消滅した集落は139(他に「他と合併」などあり)でそのうち「自然消滅」が約6割を占める(他に「集団移転」などあり)。

 「今後10年以内に消滅(無人化)する可能性がある集落」は0.7%(454か所)、「いずれ消滅(無人化)する可能性のある集落」は4.3%(2,744か所)。合わせて5.0%、3,198か所もの集落に消滅可能性があるとみられている。


2.集落が持つ機能の重要性

(1)集落が持つ機能

 集落は、農山漁村(以下、農村)地域における基本的な単位であり、「地域住民同士が相互に扶助しあいながら生活の維持・向上を図る生活扶助機能(例:冠婚葬祭など)、農林漁業等の地域の生産活動の維持・向上を図る生産補完機能(例:草刈り、道普請など)、農林地や地域固有の資源、文化等の地域資源を維持・管理する資源管理機能を果たしている」(「集落関係資料」、総務省)。


(2)集落機能の低下がもたらすこと 

 集落機能が低下すると様々な問題が生じるが、集約すると次の3つではないだろうか。

 まず、人口減少と少子高齢化により教育、医療、防災、交通など基礎的な生活利便性が低下するとともに、担い手不足などにより生産機能が低下し、商店や事業所の撤退により産業経済が停滞する。

 次に、後継者不足や所有者の転出などによる管理者不在・不明などの事情から、耕作放棄地が増え田畑・森林の荒廃が進むと災害が起こりやすくなり国土保全機能が減退する。さらに、長崎県の場合は特定有人国境離島を多く有することから、国防の面からも懸念される。

 そして、そのような状況では、住民の相互扶助機能が低下し、農作業や草刈りなどの共同作業が行えなくなるとともに、祭りや行事などの開催も困難となり文化や歴史の継承ができなくなる可能性が高まる。


3.集落の維持・再生にかかる取組み

(1)人づくり・組織づくり・拠点づくり

 集落の維持・再生の柱は、住民生活に対する支援である。その取組みには、人づくり、組織づくり、拠点づくりが必要だといわれる。まず、地域住民が自分事と認識して内発的に動くことが必要である。きっかけは行政の施策や地域おこし協力隊のような外部からの刺激であったとしても、住民の意思が反映されるものでなければ再生には結びつかない。

 そして、その動きを集落全体のものとしていく過程においてはリーダーとなる人材が必要であろう。ただし、活動を継続的なものにするには組織として活動することが望ましく、そのなかで後継者育成もなされるべきである。

 そのように組織として活動するには拠点が必要になる。たとえば公民館、廃校になった校舎など地域のシンボル的存在を人が集まる場所にするのである。


(2)「集落生活圏」と「小さな拠点」の構築

 国の集落対策は、総務省や農林水産省、国土交通省などを中心に行われている。

 それを踏まえた「長崎県総合計画チェンジ&チャレンジ2025」においては、集落・地域コミュニティの維持・活性化の推進として、「集落生活圏」の生活支援サービスや活動をつなぎ合わせて住民主体による新しい地域運営の仕組みを形成する「小さな拠点」づくりを推進することとしている(図表2)。

※集落生活圏・・・医療機関、商店などの生活機能がある拠点集落と、その生活機能を活用している周辺集落で構成する集落の圏域。

※小さな拠点・・・小学校区など、複数の集落が集まる地域において、商店、診療所などの生活サービスや地域活動を、歩いて動ける範囲でつなぎ、各集落とコミュニティバスなどで結ぶことで、人々が集い、交流する機会が広がっていく、新しい集落地域の再生を目指す取組み。


(図表2)集落生活圏と小さな拠点のイメージ

出所:内閣府地方創生推進事務局資料


(3)「小さな拠点」の運営主体となる「地域運営組織」

 「小さな拠点」の運営主体として期待されるのが「地域運営組織」(RMO=Region Management Organization)である。「○○地域づくり協議会」などの名称で共助・サービス提供を行うネットワーク型組織であり、地縁型組織である自治会・町内会より開放的、主体的なものとされる。年代や目的の異なる団体(公民館、老人会、青年団体、子ども会、消防団、社協…など)がつながることによって、地域ぐるみで集落生活圏の課題解決(買い物支援、交通支援、福祉、防災…など)に取り組む、いわば地域のプラットフォーム的役割を担う(図表3)。

 全国に7,234団体、長崎県内16市町に134団体(いずれも2022年時点)あり、たとえば、商店を開設して利用者の送り迎えや配達を行う事例、高齢者のために域内を走るバスを運行する事例、高齢者への声掛け訪問、交流サロンの開催、子どもの見守りなど多彩な取組みが行われている。その具体的な活動事例は別稿で取り上げたい。

 なお、農林水産省では、RMOのうち農用地保全活動や農業を核とした経済活動と併せた活動をするものを「農村RMO」と呼びその普及啓発を進めている。


(図表3)地域運営組織(一体型)のイメージ

出所:総務省HP

注 :地域運営組織には「一体型」(「協議」と「実行」を同一の組織が行うもの)と「分離型」(「協議」と「実行」を別々の組織が連携して行うもの)がある。この図は「一体型」。


(4)関係人口づくり

①定住人口と交流人口

 これまで各自治体では、定住人口を増やすための移住促進施策や、交流人口を増やすための誘客に力を入れてきた。

 前者のひとつとして「地域おこし協力隊」がある。都市部から生活の拠点(住民票も)を移してその地域の社会や経済の支援を行いながら定住・定着を図るもので、全国では2010年89人→2018年5,530人→2022年6,447人と広がりをみせている。長崎県内でも18市町と県に84人が活動している(2022年時点)。地域によっては、そのようなIターンの活躍に触発され地元出身者のUターンが増えるという好循環もみられる。


②関係人口

 その背景には、若者層を中心に農業や田舎に関心を抱く田園回帰と呼ばれる傾向があると考えられる。世論調査では、「農村への移住願望があるか」という問いに「20歳代男性」の47.5%が「ある・どちらかというとある」と答えており、「農業・農村地域への関わり」について81.4%が「(積極的に・機会があれば)そのような地域に行って協力したい」と答えている(「農山漁村に関する世論調査」、内閣府世論調査、2021年)。

 そのようななか、国全体の人口が減少するなか地域間で定住人口を獲得しようと競うことへの疑問や、交流人口という言葉がもっぱら観光客と同じに解釈されるようになったことから、新たに「関係人口」という考え方が広まってきている。これは、定住しない場合でも、あるいは一度もその地域を訪れたことがなくても、何らかの関係がある人(関係人口)を創出・拡大しようというものである(図表4)。


(図表4)関係人口のイメージ

出所:総務省「関係人口ポータルサイト」


 関係人口とは、たとえば、集落から転出した子どもなどが週末あるいは農繁期に農作業の手伝いに帰省するようなケースが該当する。その他には、ふるさと納税利用者、バーチャル市民、ボランティア、ワーケーションなどで関係する人があげられる。上述したように定住者が転出して関係人口となるケースもあろうし、逆に関係人口のなかから二地点居住や移住をする人が現れることもあるであろう。なお、この言葉には「人口」という文字は付いているが「数」よりも「質」や「つながりの深さ」を求める意味合いが強い。

※バーチャル市民の例・・・五島市では、市外に住む「五島市を愛し、心のふるさととする人」を「五島市心のふるさと市民」として「住民登録」している。市からは情報や特典サービスを提供、「市民」は五島のPRやまちづくりへの意見・アドバイスをする。「市民」には「ふるさと市民カード」を発行し特典を付与している。登録者数は国内外、幅広い年齢層にわたり22,516人にのぼる(2023年6月26日現在、五島市HPより)。


4.機能維持が困難な集落

 対策を打ったにもかかわらず集落として維持することが困難になったときのことも、わたしたちは考えておく必要があるだろう。

 島根大学の作野広和教授は、過疎地域に求められる対応を「むらおこし」、「むらのこし」、「むらおさめ」の3段階に整理している。「むらおこし」は、地域運営組織などによって地域を再生し活性化しようという段階。それが困難になったときには、次の段階として「むらのこし」つまり住民の生活を守り地域を持続するための支え合いに重点が置かれる。さらに、それも困難になった場合には集落の看取りを意味する「むらおさめ」が必要になるというものである。

 そして「むらおさめ」の具体的行動として、地域の土地・建物を誰がどのように管理するかといったことや、集落の歴史や文化をどのように残し伝えていくかということを計画し見通しをつけておくことをあげている。

 むらおさめという言葉に後ろ向きの印象を持つ人もいるであろう。しかし、作野氏は「『むらおさめ』とは、集落に居住している人々に対して眼差しを注ぎ続ける活動であり、集落住民の尊厳ある暮らしを価値あるものとして見守り続けることが社会全体の利益を生み出すと考える」としている。終活や家じまい、墓じまいといったことも、一昔前には話題にし難いことであったが今ではさほど特別なことではなくなってきている。それと同じように、集落のしまい方を考え議論することがあってもいいのではないだろうか。


おわりに

 過去に消滅を危惧されながら維持・再生している集落は多い。住民の意欲があり、行政の支援があり、それを助ける家族や移住者、関係人口の協力があったからに違いない。そのなかには、これまでのような定型的な「振興」や「創生」を目指した取組みによるものもあるだろうが、それとは若干異なるものもみられる。たとえば、集落の「縮充」という考え方である。これはいわば「縮小しても充実した暮らしができる社会づくり」であり、「身の丈に合った」、「やれることをやる」というものである。いろいろな考え方や手法があると思われるが、いずれにしても、集落の維持・再生に住民の意思が尊重されるよう、地域社会が選択肢を模索していく必要があるだろう。

<参考資料>

・「『関係人口』の捉え方と自治体の役割」、作野広和、「ガバナンス」2018年2月、18-20頁

・「過疎地域の現状と公選職に求められる資質」、作野広和、「ガバナンス」2022年6月、29-31頁

・「これからの過疎地域が歩むべき道」、作野広和、「自治事務セミナー」2023年8月、2-7頁

・「新たな仕組みで住民主体の地域づくり」、作野広和、「地域づくり」2023年8月、2-5頁

・総務省、国土交通省、農林水産省のHP


(2023.9.27 宮崎 繁樹)

この記事は参考になりましたか?

参考になったらシェアお願いします!
メールマガジン登録・解除はこちらから
メールマガジン登録/解除
«
»
Copyright © 2021 株式会社 長崎経済研究所 All Rights Reserved.

ページトップ