Ⅱ.端島の保全
長崎市は、2015~17年度にかけて『史跡高島炭鉱跡整備基本計画 高島炭坑 端島炭坑 修復・公開活用計画』を策定した。これに基づき、「護岸遺構」と「擁壁遺構」、「生産施設遣構」、「居住施設遺構」の4つの構成要素(図表4)に分けて、それぞれ2018年度から30年間にわたり、各遺構の役割・劣化状況などの総合的な判断に基づき、優先順位を付けて段階的に強化、安定化等の修復を行うとしている(図表5)。護岸と擁壁については、変容した状態を把握するためのモニタリングを維持・継続し、生産施設と居住施設については、保存のための研究を行っている。
【図表4】端島炭鉱の構成要素
【図表5】端島炭鉱跡整備スケジュール(抜粋)
2. 整備状況
端島では、長崎県内にも甚大な被害をもたらした1991年9月の台風19号“りんご台風”による被害など、台風被害の修繕等について、この15年の間にその特異な島姿を維持するための修繕・整備が取り組まれてきている(図表6)。
【図表6】15年間で行われてきた主な整備状況(次の①~⑦ 長崎市の資料を基に当研究所にて作成 ※クリックすると拡大)
3. 難しい上陸禁止期間の短縮
端島への上陸観光で問題となっているのが、台風接近のたびに見学施設のどこかが壊れることで、上陸禁止期間が長期に及ぶことである。その修繕工事は、着工までの期間が長い一方、着工してしまうと1ヶ月で終わってしまうものもあるなど、着工までの時間が長い現状を改善しないことには、上陸観光の大幅な迅速化は望めない。
こうした背景から、2019年1月に内閣官房と国土交通省、文化庁、県、市などで構成する「端島護岸検討部会」がその対策を検討し、端島が台風で被害を受けた場合、市と県は3日以内に関係省庁に被害状況を報告し、2週間で復旧工事の設計などを終え、3週間で工事業者を決定し着工するという、迅速に復旧工事を進める方針を定めた。ところが、同年9月の台風17号被害ではこの方針は適用されず、長期の上陸禁止が繰り返されてしまっている。 長崎市には、業者から見積もりを徴収して設計を終えるまでに約1カ月半、これに入札手続きの時間が加わり、3週間での着工は困難との認識がある。そこで、台風17号の復旧工事では、予てより上陸クルーズ業者から要望が出ていた「見学施設に取り外し可能な手すりや柵の導入」を行っている。これにより、台風接近の際にはこれらを取り外し、通過後に再び設置することができるようになり、少しでも復旧工事の期間短縮が期待できるようになった。
4. 新たな保全の形
世界遺産登録10周年の2025年、長崎市と「HERITAGE DATABANK(ヘリテージ・データバンク)」※は同年1月、同世界遺産の構成資産である端島炭坑を、世界で総ユーザー数5億人以上を誇るEpic Gamesが提供するオンラインゲーム「Fortnite(フォートナイト)」のステージとして公開した。
※株式会社電通が貴重な自然や文化を3Dデータ化して保存し、さまざまな企業や団体とともにそのデータを活用することで、当該資産の保全活動に還元していくプロジェクト。
この取組みは、端島の保存・利活用プロジェクトの一環として行われている。デジタルアーカイブ目的で制作した精巧な3Dスキャンデータをもとに、立入禁止の居住地エリアを含む島内全域を、Fortniteの常設ステージ“GUNKANJIMA ARCHIVE(軍艦島アーカイブ)”とし、現在の端島を精巧に再現して島内を自由に散策できるなど、ゲームの世界でしかできない体験を楽しむことができるようにした。
Fortniteは、ステージの利用者数に応じて運営者からゲームの収益が還元される仕組みとなっており、ユーザーが軍艦島のステージで遊べば遊ぶほど、老朽化が進む端島の保全にお金が寄付される仕組みとなっている。
※以上、【中編】終了。次回【後編】では、端島周辺の旧産炭島を含めた振興策について記載する。
(2025.3.28 杉本 士郎)