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長崎経済研究所

地域活性化の取組みが注目される五島市 ③

■新しい技術を生かしたまちづくり

 五島市は、AIなどの技術を使って暮らしを豊かにするスマートアイランド構想に取り組んでいる。

 そのひとつが、島内の移動手段として2020年から導入された乗り合い送迎サービス「チョイソコごとう」だ。五島市と株式会社アイシン(愛知県)、長崎トヨペット株式会社(長崎市)などが共同して事業化したもので、地元タクシー会社2社が運行している。

 あらかじめ登録した利用者が事業者に希望時刻と行先を連絡すると、事業者が複数の利用者の目的地・到着時刻を専用AIシステムによって計算し、乗り合わせた利用者を目的地まで送る仕組みである。料金は一回300円。現在約2,700人が登録しており、一か月の利用延べ人数は約2,500人でリピート客が多い。

「チョイソコごとう」の仕組み

出所:五島市


 医療についてもAIによる課題解決に向けた取組みが始まっている。近年、かかりつけ医と専門医を結んだ治療相談や、VR(バーチャルリアリティ)を利用した治療などが行われているが、いま五島市が導入を進めているものに巡回診療車「モバイルクリニック」がある。

 慢性疾患を抱えかつ移動困難な高齢患者が対象で、オンライン診察・検査機器等を搭載した専用車に看護師が同乗して患者を訪れ、病院にいる主治医が診療を行うシステムである。薬局とも連携している。患者は自宅(付近)に居たまま受診が可能で、看護師も同席することから医師・患者双方にとって安心感がある。医師は移動時間の短縮により生まれた時間を他の患者に向けることができる。 ソフトバンク株式会社(東京都)とトヨタ自動車株式会社(愛知県)の共同出資会社であるMONET Technologies株式会社(東京都)運営のもと地元医師が参加して行われる。年内に機器を実装した専用車が納品され次第テスト運行を開始する計画であり、初年度は2医療機関で延べ12件の診療を想定している。

モバイルクリニックのイメージ図

出所:五島市


 次に注目したいのはドローンの活用である。五島市では、2018年度から「ドローンi-Landプロジェクト」として物流、環境、農業、医療、その他分野における課題をドローンにより解決できないか実証実験を行ってきた。この事業は同時に、そのようなドローン運行のノウハウを持つ事業者を創出・育成しようという目的があり、これまでに関連事業者が4社増え、関連雇用創出が14人、講習等の参加者も110人に及んだ。

 具体的な実証試験としては、農地作付状況の確認、海洋ごみの数値化、食料品の輸送などがあるが、ここでは、実用化されている医療用医薬品の物流について紹介しよう。

ドローンが離陸する様子

出所:そらいいな(株)


 この事業は現在、豊田通商株式会社(愛知県)のグループ会社である「そらいいな株式会社」(五島市下大津町、松山ミッシェル実香社長)が、五島市に拠点を置く医薬品卸会社からの委託を受けて、五島の医療機関や薬局に医薬品をドローンで配送するサービスだ。2022年5月から奈留島に配送開始している。早くからドローン事業に着目していた松山社長が同社社長として出向、現場である五島に移住し事業を推進している。2022年8月までに飛行回数は150回以上、飛行距離は5800km以上(試験飛行含む)の飛行実績を持つ。他の島・地域へのテスト運航も進んでいるほか、今年7月には長崎大学との連携協定を締結し、事業の伸展を目指している。


■再生可能エネルギーの先進地


 五島市は、洋上風力、潮流発電の実証実験など顕著な動きがみられることから、再生可能エネルギー(以下、再エネ)やゼロ・カーボンの先進地域といわれる。五島市沖に立つ日本初の浮体式風力発電装置はそれを象徴するものであろう。

五島沖の洋上風力発電装置

出所:五島市


 再エネ利用が促進された背景には、五島市民電力株式会社(通称:ごとうの電気、五島市東浜 町、橋本武敏社長)の存在がある。2018 年、風力や太陽光といった五島の自然エネルギーから生まれた電気で暮らそうという考えのもと、福江商工会議所(五島市末広町、清瀧誠司会頭)が52 の企業・団体・個人の出資を募り設立された。2021 年末時点の契約者は 1,500 人を超え、関連事業者の雇用も創出されている。

 また、新しい動きとしては、2021年から福江商工会議所を中心に取り組んでいる「五島版RE100」があげられる。これは各企業・団体が使用する電気を今後5年以内に100%再エネで賄う(1か所以上の事業所で五島産電気を使用)とともにCO2排出量をゼロにしようという取組みである。初年度には16社が認定を受け、今年度は11社が認定される予定だ。

 このような活動により、五島市の再エネ自給率は2020年度時点で約56%と推計されているが、2024年度には約80%になる見通しだ。

 再エネ関係の数字を追ってみると、2021年度時点で浮体式洋上風力発電設備容量は累計2MW、電気自動車の普及台数は累計146台、再エネ関連企業の従業員数は累計94人、同関連事業における2021年の新規雇用創出24人と地域活性化に結びついている。今後は海洋産業において五島をはじめ県内企業の参入も期待されるところである。


「ごとうの電気」のパンフレット

出所:五島市民電力(株)

 
 再エネ利用に積極的に取り組んでいる代表的企業が株式会社しまおう(五島市吉久木町、山本善英社長)である。



五島版RE100の宣言書と認定書

出所:(株)しまおう


 同社は練物製造業者で、地元産の魚を原料とすることにこだわりをもっているが、そこに加えて工場で使用する電気も100%五島産にした。「五島版RE100」にも認定されている。同社がいち早くそのような行動をとった理由は、五島においてゼロ・カーボンの意識が高まってきたこともあるが、近年、取引先から再エネの使用状況の照会を受けることが増えてきたからだ。

 今では、パンフレットにも「電力まで五島産」「GOTO RE100」と表示し、物産展などの営業や企業説明会、工場見学などの際にはそれを積極的にPRしている。顧客からは、このような取組みをしていることに対する驚きや賛同の声が届いていて、山本社長も再エネ利用に対する関心の高さを再認識するとともに、意を強くしているところである。従業員もそのことに誇りを持って意識高く働いている。今後はRE100を達成すべくゼロ・カーボンを目指して、まずはガスを節約し、社用車を電気自動車に更新していく計画だ。


 本稿ではテーマを絞って紹介したが、五島には、まだまだたくさんの魅力がある。また別の機会にレポートしたい。

(2022.10.7 宮崎繁樹)

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