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離島で活躍する企業
壱岐焼酎の酒蔵が壱岐に日本酒を復活
~重家酒造株式会社~

 壱岐は麦焼酎発祥の地として知られている。壱岐産の原料を使い米麹1に対し麦麹2の割合による壱岐独特の製法がもたらす、麦の香りと天然の甘味が壱岐焼酎の特長だ。

 創業97年になる重家(おもや)酒造株式会社(壱岐市石田町、横山雄三社長)は、社員10人余りの小規模な酒蔵であるが、5種類の原酒を持ちバリエーション豊かな商品づくりが可能という強みを生かしながら、新しい技術を取り入れ麦焼酎の可能性を追い求めている。さらに近年では、長く途絶えていた日本酒造りを復活させ、焼酎と日本酒ふたつの‘國酒’造りを進めている。

      

重家酒造の本社・焼酎蔵


■蔵の苦境を救った熟成焼酎「確蔵(かくぞう)」の原酒

 同社では、焼酎は横山雄三社長、日本酒は弟である横山太三専務が杜氏を務めている。

 横山社長は、2004年に4代目として家業を継いだ。横山社長が10年ほどの島外生活を経て帰島した1997年当時は、第2次焼酎ブームが終わり同社の売上げが落ち込んでいた。その後2000年頃から第3次ブームが起きたものの、それは卸を通さない特約店限定の焼酎、なかでも芋焼酎を主役としたものであった。一方、同社は麦焼酎であり島外の酒販店に伝手もないことから、なかなかブームの波に乗ることができずにいた。


 そんな同社を救ったのは、蔵に眠っていた、初代の名を冠した熟成焼酎「確蔵」の原酒であった。かめで仕込み常圧蒸留したものを10年以上熟成したことによる麦の香りとまろやかさをもつ、いわば同社の原点といえる焼酎をきっかけに全国に特約店が増えていった。


 さらに、島内で親しまれてきた定番の「雪洲(せっしゅう)」に加えて、新しい銘柄「ちんぐ」を販売するなかで、マスコミにも取り上げられるようになり営業基盤を構築していった。「ちんぐ」は品質を認められG20大阪サミット(2019年)の晩餐会で提供された。そのほかにも、福岡国税局開催の「令和3年酒類鑑評会本格焼酎の部」にて金賞を受賞した「御島裸(みしまはだか)」など高品質の焼酎を造っている。

壱岐麦焼酎「ちんぐ」。 ‘ちんぐ’とは、‘ともだち’という意味の方言。


■壱岐焼酎を次世代へ

 横山社長は、焼酎の飲み手の高齢化を見据えて、若い女性や外国人などこれまで焼酎に馴染みのなかった人にも焼酎を広めたいと考えている。


 今では当たり前のようになっている本格焼酎の炭酸割だが、同社では10年以上前から若い人に気軽かつスマートに焼酎を飲んでもらいたいという思いから「ちんぐ」の炭酸割を「シュワッちんぐ」と名付けて飲食店に紹介してきた。2019年にはそれ専用の焼酎「ちんぐサブロック36」も発売した。


 また、飲み物ではないが、コロナ禍により消毒用アルコールが不足したときには、壱岐麦焼酎からさらに約5時間蒸留して製造した消毒用アルコール「アルコール62」を販売。壱岐市にも寄贈した。アルコールを造ることのできる企業として、少しでも社会の役に立てればとの思いからだった。

 この経験から、ジンも開発した。同社の壱岐焼酎をベースに、ジュニパーベリーと壱岐産の柚子をオリジナル配合したもので、大学の研究室と70種類以上の試作を経て2021年7月「OMOYA GIN(おもや ジン)」と名付け発売した。


「OMOYA GIN」八角形のラベルは壱岐島をイメージ


■壱岐に日本酒を復活

 焼酎のイメージが強い壱岐だが、以前は日本酒も造られていた。しかし次第に酒蔵の数が減っていき、最後に残った同社も、消費者の日本酒離れや杜氏の高齢化もあり1990年(平成2年)をもって日本酒づくりを止めていた。

 横山専務は学生のうちから家業に就くことを決めていて、先代である父親が断腸の思いで止めた日本酒づくりを何とか復活させたいと考えていた。幸い、製造免許は残っていた。

 横山専務は、はじめ山口県萩市で「東洋美人」を造る株式会社澄川酒造場で修業することにしたが、その酒蔵が豪雨災害に遭ったことから事業再開を支援することを優先し、自身の修業は中断することとなった。しかし、このとき災害から蔵を復活させた経験が、自身の日本酒を復活させようという思いを高め、社運を賭けた事業をやり遂げようという決意を固くすることになった。

 その酒蔵の指導のもと日本酒造りに励み、2014年5月、福岡産の山田錦を使い純米大吟醸「横山五十(よこやまごじゅう)」が完成した。鑑評会等での評価も高く、手応えを感じた横山専務は予てからの目標であった壱岐島内での日本酒造りに取り組んだ。

 日本酒造りには米と水が必要である。まず米については、壱岐には日本酒に適した品種である山田錦が不足していたことから、新たに栽培する農家を見つけ専売契約を結んだ。苦労したのが水探しだった。ミネラル豊富で鉄分の含まれない地下水を潤沢に確保できる場所を探しようやく20か所目に出会った。その地に酒蔵を建設し、2018年9月、島内で28年ぶりとなる日本酒づくりが再開された。

 蔵の規模や設備は、品質を保つことができる範囲にとどめ、酒米のとぎ汁を排水するための大規模な浄化槽を設置し地域の環境や近隣農家へ配慮した。酒粕は無償で配布している(焼酎粕は飼料などに使用)。

日本酒「よこやま」「横山五十」

 蔵内は完全冷蔵で徹底した温度・データ管理と分析を行っている。また、これまで人力に頼ることが多かった製造工程に最新設備を導入し、搾られた日本酒が外気温に触れる前に素早く充填することによりフレッシュな味質を維持することが可能となった。

 横山五十はマスカットのような香りが特長だ。同社は冷えた状態で香りを楽しむためワイングラスで飲むことを薦めていて、和食にも洋食にも合う乾杯の酒を目指している。


 このような地元農家と米栽培の専売契約を結び地域経済に貢献するとともに、先端設備を導入して高品質な日本酒を安定的かつ効率的に製造することを可能にしたことを認められ、中小企業庁の「2019年度版 はばたく中小企業・小規模事業者300社」(需要獲得部門)に選出された。


■日本の‘國酒’を壱岐から世界に

 同社は海外にも販路を広げている。焼酎については、シンガポール・中国・韓国で「ちんぐ」を商標登録し、2011年には中国上海に輸出を開始。2014年にはサッカーW杯ブラジル大会期間中にサンパウロで「ちんぐ」をPRした。現在はドイツ、フランス、イタリア、韓国などに輸出している。

 日本酒についても、イタリア・ミラノ万博(2015年)に出展したのを皮切りに海外展開し、現在では中国、香港、韓国、アメリカなどへ輸出している。

 輸出に力を入れるため、HPは英語、韓国語、中国語、日本語の4か国語対応にしている。将来的には売上げに占める輸出の割合を1割程度に増やす方針だ。



 2021年の同社は、コロナ禍という厳しい環境のなかにありながら、過去最高の売上げを計上した。信頼できる特約店や根強い愛飲者あってのことであろうし、それに応えるだけのおいしい酒を造っている証左であろう。

 5年前からチャレンジしている壱岐島の酒造好適米の特等米ができたことから2022年はAll made in IKIの國酒造りに取り組む計画である。同社は、小さな酒蔵ならではの軽快さと細やかな酒造りによって新たな挑戦を続けている。


-企業概要-
重家酒造(おもやしゅぞう)株式会社
代表取締役社長 横山 雄三(よこやま ゆうぞう)
本社・焼酎蔵 : 長崎県壱岐市石田町印通寺浦200  電話 0920-44-5002
日本酒蔵   : 長崎県壱岐市石田町池田西触545-1 電話 0920-40-0061
URL    : http://www.omoyashuzo.com
業務内容   : 焼酎・日本酒の製造販売

写真は同社提供

(2022年2月17日、宮崎繁樹)

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