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長崎経済研究所

離島で活躍する企業
壱岐初、県内唯一のクラフトビール醸造所
~ISLAND BREWERY(原田酒造有限会社)~

■焼酎蔵からブルワリーへ

 長崎県の壱岐は麦焼酎発祥の地である。500年の歴史に磨かれた伝統的な製法が認められた壱岐焼酎はWTO(世界貿易機関)より地理的表示の産地保護指定を受けている、いわば世界のブランドである。当然ながら島内では焼酎が好んで飲まれているが、近年は日本酒も復活した。さらに2021年春、壱岐初、県内唯一のクラフトビール醸造所である‘ISLAND BREWERY’が登場し注目されている。


タップルームのカウンターに並んだ‘ISLAND BREWERY’のビール


 ‘ISLAND BREWERY’(以下、ブルワリー)を経営する原田酒造有限会社(壱岐市勝本町、原田知征社長)は、1887年(明治20年)創業という老舗である。1984年(昭和59年)に当時島内にあった焼酎蔵のうち同社を含む6社が協業化(現在の壱岐の蔵酒造株式会社)したのちは、同社単独の焼酎製造を止め商品の販売のみを行っていた。

 原田社長は同社の5代目として誕生。地元の高校を卒業後、東京農業大学農学部醸造科で酒づくりを勉強した。26歳のとき地元に帰ってからは、研究好きで新しいものをつくることが好きな性格から、壱岐の蔵酒造で日本初となる花酵母仕込み麦焼酎「なでしこ」・「玉姫」の開発や、人気漫画「エヴァンゲリオン」とのコラボ焼酎(期間限定)などに挑戦、社長も務めた。

 そんななか、入社して10年くらい経ったころ、原田社長はまた新しいことを考えた。壱岐は新鮮な魚介類に恵まれている。おいしい食べものにはおいしい酒がつきものだ。壱岐には焼酎がある、日本酒も復活した、そこにビールが加わればもっと面白い島になるのではないか。そういう思いから2018年に独立してビール醸造に取り組むことになった。


■壱岐の美味しい魚に合うビールをつくりたい

 原田社長が目指したのは、‘壱岐の魚に合うビール’だ。意外なことに原田社長はさほどお酒を嗜む方ではない。しかし、それゆえにお客様目線のフラットな見方ができると考えている。求める味をみつけるために40~50種ほどのビールを飲み比べ、世界各地のおいしいものを味わった。そして着目したのは、壱岐焼酎に使われている白麹だった。白麹のクエン酸がもたらす柑橘を思わせる爽やかな酸味と、フルーティなホップの香りをまとわせることで、軽やかな飲み口と華やかな香りが魚料理に優しく寄り添う。

 大学の醸造科で発酵食品についてひととおりの知識を習得していたが、国内2箇所の醸造所で研修を受け、2021年には島に職人を招き指導を受けた。2021年3月に製造免許を取得、そしていよいよ、5月2日、130年以上の歴史がある自社酒蔵をリノベーションしてクラフトビールの醸造所‘ISLAND BREWERY’が登場した。

 ブルワリーにはタップルーム(バー)を併設。ガラス越しに発酵タンクが見えるカウンターで、つくりたてのビールを常時数種類味わうことができ、地元産の新鮮な魚介類を使ったフィッシュ&チップスやイカリングなどビールと相性の良いフードメニューも用意している。


タップルームのカウンターからガラス越しに見える発酵タンク


 2021年10月からは島外への出荷も始まった。注文が殺到して出荷が追いつかない状況が続いたが、社員を1名増やしたことと開業まで技術指導してくれた職人がサポートしてくれることになったことから軌道に乗っていった。いまでは看板商品のゴールデンエールをはじめ6種類のビールを提供しており、島内はもちろん島外各地の小売店やバー、飲食店に納品しているほか、同社HP等を通じて販売している。


■島を盛り上げたい!

 原田社長は生まれ育った町を元気にしたい、ひいては島全体を活性化したいという思いでこのブルワリーを立ち上げた。

 ブルワリーがある勝本浦の商店街は、旧勝本町時代から町並み保存を大切にしていて、レンガ造りや格子窓といった昔ながらの町家が風情ある佇まいをみせている。ブルワリーもそこに自然と溶け込んでいる。町が大切にしてきたことを尊重しながら新しいことを始めようという姿勢が表れている。


商店街の町並みに溶け込んだブルワリー


 これからも、なるべく地元とのつながりの深いビールづくりをしていきたいと考えている。これまでも、麦芽の粕を壱岐牛の餌にしたり、市場に出せないイチゴを使ったサワーエールをつくったり(期間限定)してきたが、最終目標は100%壱岐産の原料からつくった島ビールだ。小さな醸造所の挑戦はまだ始まったばかりである。

 

 勝本浦は漁師町で、ブルワリーのすぐ裏にある勝本港にはたくさんの漁船が並んでいる。ブルワリーのロゴマークは、その漁船の放電灯(集魚灯)をモチーフにしたものだ。そこには町を照らし島を盛り上げる場所になりたいという熱い思いが込められている。


漁船の放電灯(集魚灯)をモチーフにしたロゴマーク


-企業概要-
原田酒造有限会社 (屋号:ISLAND BREWERY)
代表取締役 原田知征(はらだともゆき) 
住所:壱岐市勝本町勝本浦249    電話:0920-42-0010 HP:https://iki-island.co.jp
事業内容:クラフトビールの製造販売。オリジナルグッズの販売。

※写真は同社提供。   

(2021年12月16日、宮崎 繁樹)

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