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Ⅲ.沼垂テラス商店街
沼垂テラス商店街は、市場として使われていた古い長屋を改装し、個性的なショップを入居させたことで人気を博している商店街で、地元の人だけではなく、県外から多くの人が訪れる観光商店街でもある。
1. 新潟市沼垂地区について
JR新潟駅の北東、徒歩20分ほどにある沼垂地区。この珍しい地名は、わが国の古代城柵※「渟足柵(ぬたりのき/ぬたりのさく)」に由来するとされている。近くに信濃川の河口があることから、かつての沼垂には堀が多く、舟で物資を容易に運ぶことができた。近代になると、現在も操業中の北越コーポレーションをはじめ、日本石油の製油所など3社が進出してきて24時間操業を行ったことから工場城下町となり、上越市の直江津駅と結ぶ北越鉄道(現在の信越本線)の終着駅として貨物駅も設置された。
※城柵(じょうさく)。7~11世紀までの古代日本において、大和朝廷(ヤマト王権、中央政権)が本州北東部を征服する事業の拠点として築いた施設。
2. 旧沼垂市場時代
沼垂地区の公衆市場「沼垂市場」は、堀が埋め立てられた1950年代に設置され、生鮮食品や日用品を取り扱っていた。工場で働いていた多くの人々は、仕事を終えるとこの市場の通りに流れてきて、買い物をしたり飲食をしたりするなど、人々で溢れて大変活気に満ちていた。
ところが、1990年代になると、賑わっていた沼垂市場通りは、新潟駅を中心とした都市開発や、大型商業施設の郊外進出、これに誘致した工場の撤退と縮小、商店主の高齢化などが重なり廃業する店が続出、店舗が減少していった。さらに、2000年代に入ると沼垂駅が廃駅となり人口流出も加速。2010年、市場には青果店や雑貨店など数店舗が残るのみとなり、シャッター通りと化してまちには空き家が増加するなど、当地区は衰退していった。
3. 沼垂テラス商店街の誕生
市場前の通りを挟んで向かいにある大衆割烹「大佐渡たむら」の2代目、田村寛氏は90年代の後半、東京の大学を卒業して生まれ育った沼垂に帰郷したが、実家の経営が厳しいことに加え、すっかり寂れてしまった市場通りに危機感を抱いた。これは自分の店だけでなく、沼垂のまち全体に勢いをつけなければダメだと考えた田村氏は、地域を考えるグループ「なじらね※沼垂」にアンテナショップのような店の出店を提案するも、その実現はなかなか難しかった。
そこで2010年6月、市場の建物(長屋)の一画をリノベーションし、建物を管理している組合の許可を得て、手作り惣菜と佐渡の牛乳を使ったソフトクリームの個人店「Ruruck Kitchen(ルルックキッチン)をオープンした。

開店当初は苦戦した「Ruruck Kitchen」だったが、口コミなどで徐々にその存在を知られるようになり、沼垂まで買い物に訪れる人が増えてきた。この状況を見た田村氏は、他に出店する人がいないかどうか声を掛けてみたところ、新潟で店を開くための場所を探していた家具職人と染色家の若夫婦が2011年、2店目となる手づくり家具とカフェの店「ISANA(イサナ)」をオープンした。
次いで、翌2012年には3店目、陶芸工房兼ショップの「青人窯(あおとがま)」がオープンした。同店は、陶芸の勉強のため岐阜県多治見市に住んでいた新潟出身の夫が、関西出身の妻と「ISANA」に偶然来店したことがきっかけとなり、沼垂市場に共同出店した店である。また、同年には、地元メディアが沼垂市場におけるこれら出店の動きを次々に採り上げたのを機に、市場前の通りで試験的に青空市場を開催してみたところ、これが盛況だった。
この様子を見た多くの若者たちが「古い長屋が残り、レトロな雰囲気を醸し出している沼垂市場に出店したい」と、田村氏に相談してきた。ところが、市場への出店は、建物を管理している組合の規約によりこれ以上は組合員しかできず、3店舗の出店は規約上ぎりぎり許可されたものであり、更なる出店は不可能だったのである。
そこで、2014年3月に市場の管理会社・株式会社テラスオフィス立ち上げて、田村氏が代表取締役社長(現在は会長)に、同氏の姉・高岡はつえ氏を専務取締役(現在は代表取締役社長)として運営を始めた。 そして、この市場の長屋を「まちを明るく照らす」、「店舗前がテラスのようになっている」、「市場の周囲にお寺がたくさんある」という3つの“テラ”を掛け合わせた『沼垂テラス商店街』と命名し、出店者に店舗区画を貸し出したのである。同商店街は15年4月、計28店舗(以前から営業している4店舗と先駆け出店の3店舗を含む)でオープンした。
商店街に出店を認可するにあたり、高岡&田村姉弟が重視したのが「ここでしか 買えないモノを提供する店」である。商店街事務局を担う株式会社テラスオフィスが出店希望者と面談する際には、同条件ともに、「他の出店者とともに働きたい気があるのかどうか」という気持ちも見極めた。結果、ハンドメードアクセサリー店やガラス工房、手づくり小物雑貨店、フラワーショップ、カフェなどの個性的な店舗が市場に開業している。
4.商店街のイベント
沼垂テラス商店街では、2012年から年1回開催していた青空市場を継ぐイベントとして、朝市(4~11月)と冬市(12~3月)を月1回、年に数回の夜市を始めた。これらのイベントは、コロナ禍における休止を経て、定例イベントとして現在も続いている。
イベントの際には、地元住民の生活道路で、車の通りも多い商店街の前の道が歩行者天国となり、新潟市内外から出店する店のテントが30張ほど並ぶ。特に、朝市はメディアにもよく採り上げられており、新潟市近辺だけでなく、県外からも多くの客が訪れる商店街の目玉イベントとなった。結果、同商店街は週末や夏休みなどの観光シーズンは県外客で、平日は地元の買い物客が中心となり賑わっている。
※以上、【中編】終了。次回、最終回は沼垂テラス商店街の取組みの周囲への拡がり、課題などについて記載する。
(2026.1. 14 杉本 士郎)