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商店街の活性化に向けて ~沼垂テラス商店街を事例に~ 【後編】

※写真や地図はクリックすると拡大

5. 拡がる商店街~沼垂テラス・エフ~

 沼垂市場で起こった動きはその周辺にも波及した。現在、“沼垂テラス商店街”といえば、市場の長屋だけでなく、近隣のサテライト店も含まれる。

 テラス商店街のオープン後、株式会社テラスオフィスには出店希望者からの問い合わせが引きも切らなくなった。ところが、長屋に空き店舗が出ない限りはそれらに応えることができない。さらに、商店街のオーナーからは、近隣にある空き家の活用はできないのか?などの声も上がってきた。

 そこで同社は、まず近所にある1軒の空き店舗を借りて出店希望者とのマッチングを行い、2015年にテラス商店街初のサテライト店「BOOKS f3」(書店)をオープンしてみた。すると、これを見た周辺の空き店舗オーナーが、同社に店舗を貸しはじめたため、ゲストハウス「なり-nuttari NARI-」や靴修理の店「KADO shoe repair & crafts」といった、ユニークな店舗の誕生につながった。

ゲストハウス「なり-nuttari NARI-」
KADO shoe repair & crafts

 この動きに追随して、パーソナルスタイリングサロンやシャンプーとシェービングの店など、さまざまな業態の店舗もオープンした結果、エリア一帯が一段と賑やかになっていったのである。

 同社は、これらのサテライト店舗群を“気兼ねなく”などの意味で、<とても優しい表現>として使われる「feel free」という言葉を用い、「訪れた人に気軽に立ち寄ってもらい、楽しくワクワクする沼垂がどんどん拡がってほしい」という意味を込めて『沼垂テラス・エフ』と名付けた。現在、ここには9店舗が出店している。

2025年10月現在の「沼垂テラス・エフ」マップ。6つの店舗にオフィスが2箇所、ゲストハウスが1箇所。

提供:株式会社テラスオフィス

6.課題など

 沼垂テラス商店街の課題は、大きく次の2点である。1点目は、同商店街が“いつ来ても楽しい場所”と言えるのか、である。商店街の店舗群は、店ごとに営業時間や休業日が異なってはいるものの、平日を定休日としている店が多く、平日に訪れた人が楽しいと思えるのか微妙なところとなっている。

 2点目は、商店街の専用駐車場が無いことである。周囲には民間の小さな駐車場が点在しているものの、専用駐車場が無いことの影響は大きく、イベントなどの際には、周辺企業の駐車場を臨時で借りてはいるものの、数が足りているとは言えず、専用駐車場の確保が早急に望まれる。

7.商店街の今後について

 昨年、2025年4月に10周年を迎えた『沼垂テラス商店街』。この10年間で、旧市場時代から同商店街で営業していた店とサテライト店・沼垂テラス・エフとを含めた商店街全体で閉店した店舗は26店舗を数える。

 しかしながら、このうち、経営上の理由ではなく、手狭となった沼垂市場を“卒業”するという形をとった、いわゆる発展的閉店がおよそ4割を占めた。この点について、高岡社長は「当商店街は新潟商工会議所との関係も良好であり、出店希望者が初めて起業する場合などには、商工会議所への相談も勧めるなど、丁寧な対応を心がけている。そのため、出店している皆さんにも信頼していただいているようだ。沼垂テラス商店街は、起業者のステップアップ機能の役割も果たすようになってきている」と語る。また、「現在の沼垂テラス商店街は、市場長屋への新規出店はタイミングよく空き店舗が出ない限り不可能な状況が続いているため、これからはサテライト店を増やしていく。サテライト店が増えれば平日に開く店も増えて、地域全体の魅力が増し、まちの活性化にも貢献できる。定住人口も増えるのではないでしょうか」と、今後について語っている。

近隣にはまだシャッター商店街が残る

おわりに

 全国商店街振興組合連合会の商店街実態調査報告書には、商店街の空き店舗が埋まらない具体的な原因として「地主や家主など貸し手側の都合」と「テナントなど借り手側の都合」が挙げられている。空き店舗を減らして商店街を活性化するには、貸し手側の“老朽化した店舗でもなるべく高く借りて欲しい”という気持ちと、借り手側の“老朽化しているのだから安く貸してほしい”という気持ちの条件のすり合わせが不可欠となるが、沼垂テラス商店街の場合、株式会社テラスオフィス会長の田村氏が、まず自ら店舗を構えて商店街とその周辺の魅力をアピールした結果、借り手側の方から入居したいとの声が上がり、入居者自らが建物をリノベーションして開業している。このことが個性的かつ魅力的な店が並んだ商店街を形成し、他の商店街や商業施設との差別化を生んでいる。

 同商店街は、2015年度第6回地域再生大賞の準大賞、2017年度グッドデザイン賞、2022年全国商店街DXアワードの審査員特別賞、2023年度ふるさとづくり大賞の優秀賞、2025年あしたのまち・くらしづくり活動賞の内閣総理大臣賞など、多くの受賞歴を誇り、また、2021年度には経済産業省と中小企業庁が主催する「はばたく商店街30選」に選定されるなど、全国から視察が絶えない商店街となった。商店街を運営している株式会社テラスオフィスによると、週末に訪れる人の9割は観光客であり、国内はもとより、台湾や中国、インドネシアなど海外からの客もいて、その数は年間20万人を超えるとのことである。

 10周年を迎えた『沼垂テラス商店街』だが、ここに来ないと出会えないモノ、店主や空間そのものに魅力があるという、「ここでしか出会えないモノ・ヒト・空間」というコンセプトは変わらない。株式会社テラスオフィスは、田村会長が最初に開業した「Ruruck Kitchen」を一定の役割を終えたと判断、今年(2026年)4月末の営業終了をアナウンスした。ちなみに、その跡にはまた新たな若い起業家の入居がすでに決定しているとのことである。

 高岡社長は「沼垂テラス商店街の歩みが、第一ステージを終えてホッとしている。沼垂の商店街は一般的な商店街とは少し異なる点も多いが、商店街の活性化に必要なものは、商店街を変えたいという熱い想いと、その気持ちを周りの人に共感してもらうこと、この点はどこも同じだと思います。商店街が賑わって、まちが活性化すればこれほど嬉しいことはありません」と語る。

 全国の商店街で、この沼垂地区の事例が活性化策としてそのまま当てはまるところは少ないかもしれないが、参考となる部分は多いものと思われる。高岡社長の“商店街を変えたいという熱い想いと、その気持ちを周りの人に共感してもらうこと”という言葉が商店街振興の最大のポイントではないだろうか。

(2026.1. 22 杉本 士郎)

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