2023年5月29日月曜日、ANAクラウンプラザホテル長崎グラバーヒルにおいて長崎上海クラブ主催による講演会が開催されました。前長崎県上海事務所 所長 黒川恵司郎氏(現長崎県産業労働部 企業振興課 総括補佐)が「ゼロ・コロナ終了後の上海と現況について」をテーマに講演されました。
講演の内容は次の通りです。
令和2年 1月末 |
中国湖北省武漢市がロックダウン。駐在員や地方政府関係機関のほとんどが一時帰国する中、長崎県は友好交流関係にある湖北省を中心にマスク等支援を行う。 |
4月末 | 長崎鮮魚と長崎県産酒のイベントを実施。 |
5月 | 中国では都市間移動が可能となる。福建省等友好都市を中心に訪問 し、直接交流を再開。 |
6月 | 長崎鮮魚に加え、新しい輸出商品(壱岐焼酎)を中心に日本料理店での営業活動と、地域顧客との交流を行い、販路拡大。 |
9月 | 厦門にて中国国際投資貿易商談会に出展(コロナ禍初の大型商談会)。中国国内の経済活動が活発化し、地方政府機関においても様々なイベントを開催。 |
12月 | 湖北省に協力し、在中国の日本の地方政府代表機構を招いた武漢等への視察会を開催。湖北省内では、長崎県の取組みを中心に報道等で話題となる。 |
当時、閉塞感があった日本国内とは対照的に、中国国内では、長崎の地場企業が経済を停滞させることなく活動してきました。具体的には、巣ごもり需要を狙ったLOFT店舗内における波佐見焼コーナーの設置、イベントにおけるカステラの販売(冷凍輸入。特に駐在員の方に需要あり)、中国各地でのマグロの解体ショー、上海市内の日本料理店イベントでの長崎鮮魚フェアなど積極的に開催しました。
令和3年 3月末 |
上海にて、3/26時点では「ロックダウンは行わない」方針であったが、3/27に急遽ロックダウンが決定。 |
浦東エリアでは封鎖までの時間が確保されず混乱状態でした。浦西エリアでも封鎖前の3日間で食材を求めスーパーに人が押し寄せるほどの状況でした。ロックダウン中の食材調達は、主に政府からの支援物資のみであり、野菜や肉などが支給されましたが、配給の回数や内容は住居によって異なり、食糧難となっている住居もありました。そのような状況下において、長崎県上海事務所は、日本人の多い地区に無料で「島原手延べそうめん」を1500食分配布し、新聞でも取り上げられました。
上海のロックダウンを受けて、移動制限による物流や出勤の問題、従業員の健康管理、失注等の発生再開後の従業員の確保等の課題が浮かび上がりました。今後のリスク対策として、上海に集中して拠点を構えるのではなく、分散して生産拠点を構えることが重要視されました。
大幅な移動制限の緩和により、駐在員も中国国内での移動が楽になりました。また、観光業が本格的に再開し、飲食業なども復興しました。その他に、料理人や従業員が現場に復帰し、宴会自粛等がなくなったため、急激に来店客が増加しました。
また、中国では、2018年の中国国際輸入博覧会からの輸入品市場拡大路線であり、水産物においては、競争が激化していますが、長崎県はPCR検査などへの早期対応など、安心安全面での差別化・魚種の豊富さのおかげで優位な立ち位置を取っています。また、中国において、牛肉の輸入解禁の動きが高まっているため、長崎県としては早期に長崎和牛をPRする狙いもあります。
さらに、交流人口の拡大の見込みとして、中国の地方政府や企業等は日本との交流意欲が増え、観光ニーズや視察等が増加しています。具体的には、地方政府や学校等からの交流要望や、海外に行けない現状に日本への観光ニーズが増加しています。対応策として、出来る限り、直接交流を促進しつつ、オンライン等の交流も併用すること、観光ニーズについては、オンライン型のイベントなども活用し、通常のPRのみならず、体験イベントなどを拡充することが挙げられます。
今回の講演を聴講して、印象的だったのは、コロナ禍の中国において、黒川所長をはじめとする長崎上海事務所のスタッフが、閉塞感があった日本国内とは対照的に、人脈を活かして県産品をセールスするなどして経済を停滞させることなく努力していたことです。
また、質疑応答の中で長崎大学の河野学長から、留学生の受け入れを拡大していく旨のお話がありました。中国の学生の留学ニーズと上手くマッチングさせることによって留学生を増やし、一層国際交流が活発になることが期待されます。
今回のコロナ禍における取組みも含めた、これまでの長崎県が築いてきた中国との人脈や経済的つながりを生かし、長崎に住む私たち個人個人も中国との交流を深めていきたいと感じました。
(2023.6.9 井上 翼)