株式会社 BLUE.MOUNTAIN
プロデューサー 片 平 梓
1996 年 長崎県長崎市生まれ。
2016 年 長崎県立大学情報システム学部情報システム学科入学(1期生)。
2020 年 卒業後、株式会社 UNITED PRODUCTIONS に入社。
2022 年 オール長崎映画「こん、こん。」を制作。
同年 11 月に UNITED PRODUCTIONS を退社し、株式会社 BLUE.MOUNTAIN のプロデューサーとして、長崎・東京の二拠点で活動。
ご当地映画、または、地方ロケ、と聞くと、皆さんおそらく何作品もの映画やドラマのタイトルが思い浮かぶことと思います。海、山、路面電車など、豊かなロケーションのある、ここ長崎県においても、過去数多くの映画やドラマでロケが行われました。ロケがある度、ロケ地マップやロケ地ツアーなども行われて来ましたが、これらすべてが、撮影のために東京から人が来て、嵐のように去っていき、公開でまた人が来て、盛り上がりも観光客も含めて、一瞬にして過ぎ去っていくものでした。一過性の盛り上がりは全国的に広がり、「ご当地映画ブーム」が発生していた時期もありましたが、今ではとても落ち着いて来てしまっている印象があるのではないでしょうか?
弊社では「長崎 MOVIE PROJECT」と銘打ち、人を育て、まちづくりに貢献し、全国、そして世界へ発信していく取り組みを行っております。
本稿におきましては、新しい映画の作り方、活用の仕方について、弊社の取り組みをご紹介させていただきます。
「長崎 MOVIE PROJECT」とは、開かれた映画制作を、長崎県出身者や在住者で行い、そして自分たちの手で、全国や世界へ発信していくという取り組みです。
1 本の映画作品を作り、皆さんに届けるにあたって、製作発表からオーディション、準備、撮影、仕上げ、宣伝、配給、興行と大まかに様々な工程が発生します。
まずはこれらを、「開かれた」ものにし、ひとつのコンテンツとして活用します。
はて、一体どういうことでしょう?と首を捻られたかもしれませんので、実際の例を使ってご紹介いたします。
<公開オーディションの様子>
2022年7月、映画「こん、こん。」出演者を選出するため、大規模に呼びかけ県民キャストオーディションを実施いたしました。応募は 100 名を超え、実際には、会場であるボートレース大村まで、88 名の方に当日会場まで足を運んでいただきました。写真をご覧の通り、応募者の方にはステージ上でお芝居を披露していただくという、通常のオーディションでは行わない形式での審査となりました。また、通常は取らない形ですが、ここが「開かれた」部分で、応募していない、一般の方々にも自由に出入りできるように設定することで、映画に出演したい方、映画自体に興味のある方、応募者を応援している方など、様々な方々が、「出演者オーディション」という、本来クローズドで行われるものをオープン化することで、推定 200 名の人々が集まり、ひとつの大きなイベントとして成立しました。実際に、「こん、こん。」では、32 名の県民の方にご出演いただいております。
チャンスがないから、私なんかがなれるわけないから、と諦めていた方々が、一回きりのチャンスと挑戦し、見事出演枠を勝ち取り、「お芝居って楽しい!」と夢を持つきっかけにさえなっています。
実際に、会社員をされていた女性が、「こん、こん。」に出演したことをきっかけに、芸能事務所に応募し、現在は長崎を拠点に女優・タレントとして活躍されているという事例がございます。
通常、地方ロケというと、東京で組まれたスタッフたちが、撮影の準備は東京で行い、撮影中だけ地方にやって来て、撮影だけを真摯に行い、そして終われば去っていくものです。しかし、「こん、こん。」では、私や監督を含めて、8 割は長崎を拠点として活躍しているスタッフで実施。監督が東京との二拠点での活動ということもあり、リモートでの打ち合わせを活用しながら準備を進めました。県民だからこその目線で、郷土愛に溢れた映像に仕上がっております。撮影中においてもオープン化し、弊社 SNS では、右記画像のように発信を行いました。エキストラ参加のみならず、撮影を見学してみたい方々も受け入れて撮影を実施。実際に、わざわざ撮影現場までお越しくださって「見に来ました!」とお声をかけてくださる場面もありました。
身近な生活圏が映画に残る、そしてそれを実際に見ていた、という思い出が、一種、参加してくださった県民の方々のシビックプライドへ繋がると考えております。
<これまでに行ったイベント>
映画のプロセスのみならず、年間通して、県内様々な場所でのイベントも実施しています。
監督による、映画や映像についてのトークや、県民の方々にも登壇していただき、映画の撮影に参加したからこその感じられた意見や、まちづくり、地域貢献について考えるイベントも実施しております。
参加者と対話しやすい規模で行うことが多く、都度様々なご縁が生まれ、そして、参加者同士での新たなコミュニティというものも形成されていることもあり、県内を横断して、様々な場所で行う意義があると実感しております。
人口流出率が日本国内ワーストトップクラス、高齢化も進み、人口減少は顕著、付随して様々な社会課題を抱えている長崎県。
「映画」「エンタメ」にできることを長崎発で継続的に行うため、弊社は長崎県出身者にて設立いたしました。
「エンタメ」というものが、ひどく遠い世界の仕事であると感じている若者が多いこともあり、まずは若い世代が長崎に興味を持てるような、そんな作品を作りたいという思いから、第 1 作「こん、こん。」を企画。
キャスト、スタッフとして、実際に数多くの現役の高校生、大学生が参加してくださいました。映画ってこうやっ て作るんだ、不安だったけど楽しかった、娘・息子が輝いていて参加させてよかった、という感想を各所からいただいた点は、この企画を第 1 作目とした甲斐があったと強く感じています。
お芝居の勉強を始めた方、ものづくりの学べる学校に進学した方、この映画を通して、きっとどこか諦めていた夢を追う決意をした方々がたくさんいました。
豊かな森が、豊かな海をつくるように、山に緑が茂り、土地が育ち、海が潤う。
この映画でも、若葉が芽生え、これから何年もかけて、大きな葉を広げていきます。
故郷で映画に携わったからこそ、夢を追った自分を誇りに思い、そして故郷を誇りに思える。
人が生まれ、まちがつくられ、物事が動いていき、よりよい長崎へと進化できる。
そして、出来上がった作品を、国内を飛び越え、アジアへ、さらに全世界へ。
さらに多くの人が長崎に関心を持ち、人が集まり、豊かな土地へと発展できるよう、弊社にできる活動を、これからも継続して参ります。
長崎発で映画を作って、本当にシビックプライドが持てるのか?と疑問もあるかと思います。個人的な話ではありますが、私自身が、実は上記と同様の経緯で、今、長崎で映像のお仕事をさせていただいております。2018 年、今から 5 年前、横尾初喜監督が「こはく」という作品を撮影いたしました。私は当時、長崎県立大学の学生で、エンタメとは無縁な、平凡な大学生活を送っていました。ご縁あって、約 2 週間の撮影に携わらせていただき、映画を作る人たちの魅力、総合芸術というプロの世界に魅了され、その後すぐ、仲間たちと地元で学生映画を作るなど、自分でも信じられないような学生生活を手に入れました。
将来の夢も、なりたい職業もなかった私ですが、今、実際にこうして、憧れた方々と、映画のお仕事に携わらせていただき、エンタメの持つ力、映画の持つ力とは、それほどまでに大きいものだと私自身が証明していくためにも、このように長崎での映画の活動の中心に立っています。
「オール長崎」の映画が、どこまで世界に通用するのか?
まずは、皆さんご自身の目で、作品を観ていただけたら嬉しいです。
映画「こん、こん。」秋からは東京ほか全国での公開が決定しております。
長崎の圧倒的なロケーションで描く、若者たちの熱い青春を描いた作品です。皆さんの郷土愛、大切な人たちへの愛を、思い返しながら観ていただけると幸いです。