長崎県立大学 経営学部
国際経営学科 専任講師 大久保文博
新型コロナウイルス感染症拡大で疲弊したベトナム経済は、コロナ禍による都市封鎖のロックダウンや世界的な景気減速などの影響により、2020年と2021年の実質GDP成長率はそれぞれ、2.87%、2.58%と低成長を記録した。しかし、今日ではコロナ前の勢いを取り戻している。2022年の経済成長は、前年比8.02%(第1四半期5.05%、第2四半期7.83%、第3四半期13.71%、第4四半期5.92%)を記録して、2019年の7.36%成長を上回り、見事なV字回復を達成している。一方、2022年の消費者物価指数(CPI)は3.15%を記録して、前年の1.84%から大幅に上昇した。厳しいコロナ禍での抑制生活が終わり国内での消費が拡大、さらに、内需だけではなく、輸出向けも含めて好調な製造業がCPIを引き上げた要因の一つになっている。
政府は2023年の実質GDP成長率の目標を6.5%に掲げており、世界銀行とアジア開発銀行ではそれぞれ6.3%、6.7%成長を予測している。世界銀行の「Global Economic Prospects(世界経済見通し(2023年1月)」では、2023年の世界経済の減速が予測されているものの、ベトナムは唯一、アジア地域でトップの6%台の経済成長を見込まれている。2023年は日越外交関係樹立50周年で日本、ベトナム両国で大きな盛り上がりが期待される年であり、世界からは経済、ビジネスの面から脚光を浴びている。
コロナ禍での消費・購買行動、マーケティング戦略は様々な変化を生み出している。商都であるホーチミン市を拠点に展開する日系コンビニエンスストアで商品開発を担当するGeneral Managerは筆者のヒアリングの中で、コロナ禍における消費・購買行動の変化を、「密になりたくないという消費者意識から、ワンストップショッピングができるコンビニ利用という需要が増加した。日用品の売上が増加して、客数は減ったものの、客単価が伸びている。」と分析する。まとめ買いも多く、客単価の伸びにも繋がっている。また、消費者の嗜好も変化を生んでいるようだ。例えば、ベトナム人は、野菜不足を認識する購買層が増えている。とりわけ緑黄色野菜の摂取が少ないことから、コンビニエンスストアではサラダの売り上げも増加傾向にある。まさに元来のベトナム人の健康志向がキーワードになり、新たなビジネスチャンスが生まれている。こうしたサラダの他にも、巷ではフィットネスクラブが隆盛となっており、それに付随してサプリメントなど関連商品も人気を博している。サプリメント需要などもあり、ドラッグストアが店舗を急展開していることも頷ける。老弱男女を問わず、ヘルスケア商品に対するポテンシャルは高い。
ベトナムの一人当たりGDPは4,000ドルを超え、ホーチミン市やハノイ市を中心に、旺盛な消費市場としての様相を呈している。高額商品も売買され、EC市場も浸透している。サービス産業の高度化が進んでいる。これだけ好材料が多いベトナム市場において、どのような参入障壁があるのだろうか。需要だけではなく、供給の観点からも考える。
実際に輸入商品などを流通させるハノイ市の地場卸売業者の副社長は筆者のヒアリングに対して、「ベトナムに参入、商品展開する際の、日本企業の心構えが重要である」と指摘する。そもそもベトナムにおいて、卸売業者と組むのは容易ではない。そのため、どのように展開するかというHowが重要視されがちであるが、実際は誰と組むかというWhoの観点が最も大切である。卸売業者だけでなく、さらに地方などの小単位の地域を担当する二次・三次卸売業者との関係性を大切にすることが肝要である。小さな商圏で圧倒的な強みを有する二次・三次卸売業者と地域に根付く小規模小売事業者である伝統的小売店(写真1、写真2)に対して、しっかりと商品供給されているかが成功の鍵である。Grocery/日販品分野であれば、市場の9割以上をこの伝統的小売店が占めており、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの近代小売りは1割に満たない。無視できない巨大市場とでも言えよう。まさに、「物流を制する者が市場を制す」ならぬ「流通を制する者が市場を制す」ということになる。
【出所】
ベトナム統計総局「SOCIO-ECONOMIC SITUATION IN THE FOURTH QUARTER AND 2022」
世界銀行の「Global Economic Prospects[世界経済見通し(2023年1月)]」
【補足】
長崎県立大学学長プロジェクト(長崎県内企業及び日本企業の海外展開に向けての支援策の利用・効果分析・海外輸出におけるマーケティング戦略分析)の成果普及として寄稿。