~ 長崎市内の事例を中心に~
Ⅳ.長崎市内に立地するコワーキングスペース
(1)CO-DEJIMA (コデジマ)
CO-DEJIMAは、2019年3月、長崎県がスタートアップ企業[1]の交流拠点として、長崎県美術館に隣接する出島交流会館の2階に設けた施設である。会員登録後無料で利用でき、作業や打合せなどに活用できるほか、起業家や起業を考えている方やスタートアップに興味のある学生に向けた、独自のアクセラレーションプログラムなどを提供している。同施設は、成長が見込まれるスタートアップや、スタートアップを目指す個人、企業、大学、金融機関など多様な人材が交流し、アイデアや技術を高め合うことで、新たなサービスを形にするための拠点となっている(開館時間は火曜日から土曜日の12時から20時まで)。

また、長崎県内のスタートアップ企業や関係する施設、支援機関などを掲載した「長崎スタートアップカオスマップ」、県内のスタートアップ関連だけでなくクリエイティブな活動やコミュニティの情報を地図情報と紐づけて掲載した「出島っぷ(DEJIMAP)[2]」を作成するなど、情報発信にも力を入れている。


[1]革新的なアイデアや技術を基に、新しいビジネスモデルや市場を開拓し、短期間で急成長を目指す企業を指す。
[2]出島っぷ(DEJIMAP)は、https://co-dejima.jp/nagasaki-area-map/より閲覧できる。
当施設の主な特長として、次の5点が挙げられる。
| ①会員登録(初回のみ)後、無料で利用可能。 |
| ②無料で利用できるミーティングスペースのほか、イベントスペースとしての利用も可能(開催には施設の利用案内や同意事項に沿った手続きが必要)。さらに、創業予定者や創業5年未満の方を対象とした有料の固定ブース(5室)を備える。 |
| ③先輩起業家を招いたスタートアップ支援プログラムや交流会などを定期的に開催している。 |
| ④起業・創業無料相談&事業壁打ちや、専門家によるメンタリングサポートを利用できる。成長を目指し、幅広い分野で個別相談が可能。 |
| ⑤SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)をはじめとした県外の産業交流施設とも連携している。CO-DEJIMA の会員は、無料で県外の各施設を利用することができる(事前の申請と承認が必要)。 |
また、CO-DEJIMA は交流イベント「NEO-DEJIMA GATHERING [3]」を主催し、DIAGONAL RUN NAGASAKI(後述)でも開催。スタートアップと本県ゆかりの起業家が交流する場として発展を続けている。加えて、起業や事業承継に必要な基礎から応用スキルを体系的に学ぶ「実践型アクセラレーションプログラム[4]」も実施している。AIやエフェクチュエーション[5]など最先端のテーマをビジネスに取り入れることで、学生の支援や若手起業家の輩出や育成に取り組み、県内全域でのスタートアップエコシステムの構築も目指している。
[3] あらゆる業界・職種の人が、最新のテクノロジー動向やビジネス機会などを学び、交流機会の創出を目的としたイベント。
[4] スタートアップ企業や企業家が事業を短期間で成長させるための支援プログラム。
[5] 経営学者サラス・サラスバシーによって提唱された理論。手持ちの資源を最大限り活用することで可能な結果をデザインしていくアプローチ。
(2)DIAGONAL RUN NAGASAKI(ダイアゴナルラン長崎)
起業を目指す人と地域、企業などとの連携をうながすことによって、新しいビジネスの創出を支援するコワーキングスペースDIAGONAL RUN NAGASAKI(以下、ダイアゴナルランと表記。旧十八親和銀行思案橋支店跡)は、今年7月現在、2022年1月の開業から3年半が経過した。
この“ダイアゴナルラン”というのは、フィールドを対角線上に走り、相手のマークを外して動くサッカーの戦術のことであり、長崎と全国を結び、新しい価値をともに創造する拠点としていきたいとの想いが込められている。約176㎡のスペースには、スモールオフィス2室、会議室1室が備えられており、39席のフリーデスクを設置しているオープンスペースはイベントスペースも併用している。営業時間は9時から22時までで、月額契約の会員だけでなく、一時利用(有料・平日のみ)も可能である。また、会員は東京都と福岡県にもある同施設を利用することができる。

ダイアゴナルラン長崎では、コワーキングスペースのデメリットの一つとして挙げられる情報漏洩リスクについて、フォンブース[6]を2室設置し、誰でも利用できるようにしている。また、利用者がオープンスペースを利用する際には、仕事に集中できるようにスタッフが空いている席に誘導するなど、丁寧な応対を心掛けることで、利用者の満足度を高めるようにしている。
利用者から寄せられた感想には、「日によってコワーキングの見せる顔が違う。イベントがある日は勿論だが、ドロップインが多い日はマネージャーが交流をうながしてくれるし、少ない日はマネージャーと壁打ちができる。」(20代男性)、「異業種交流ができるのは勿論、月額会員向けサービスのコストパフォーマンスが良い。」(40代女性)などとあった。

当施設は、JR長崎駅や長崎市内に立地する大学等から離れた場所にあるものの、市の中心部という立地の良さを生かした多くのイベントを開催することで、利用者の増加に繋げている。スタートアップやオープンイノベーション、アントレプレナーシップ[7]などの関連イベントを、年間を通じて開催した結果、直近3年間のイベント数は、2022年60件、23年87件、24年97件と充実している。県外からの参加者も多く、同施設の入居者(今年4月の時点で18社、31名が入居)との交流も活発に行われている。
[6] オフィス内に設置できる個室スペースを指す。電話やWeb会議など、周囲の音を気にせず作業に集中したい時に利用する。遮音性や吸音性に優れプライバシーを確保できる。
[7]新しい価値を創造し、ビジネスを立ち上げるための精神や行動を指す。
(3)COWORKING SPACE WORK@NAGASAKI (コワーキングスペース ワークアット ナガサキ)
昨年10月に開業した長崎スタジアムシティのオフィス棟「North」10階に、長崎最大級のコワーキングスペース「COWORKING SPACE WORK@NAGASAKI」がある。窓からはピーススタジアムのほか、長崎のまちが一望できる。受付のカウンターには稲佐山の稜線がデザインされ、テーブルには諫早石を使用するなど、随所に長崎らしさを取り入れた設計がなされている。10階から11階までを行き来する「だんだんラウンジ」階段は、吹き抜けの洗練されたデザインとなっているほか、12階の屋上に向かう階段を吊り橋状にするなど遊び心も取り入れており、そうした環境が利用者から好評を得ている。

当施設は、400坪超の広さに座席数320、高速Wi-Fi、フリードリンク、電子書籍サービス、大型モニター、貸出備品、通話・ミーティングボックス、バルコニーなどを設けている。その利用プランには、登記・住所利用ができる法人プランと曜日・時間帯に合わせて選べる個人プランの2つがあり、スタジアムシティの中にある飲食店や、スーパー、温浴施設などを利用しながら、丸一日過ごすことができる。
このような施設の充実ぶりから、その利用者には出張で長崎を訪れる社会人のほか、地元の高校生や大学生も見受けられる。当施設は、今後このような利用者を対象としたイベントを企画することで、施設利用者の増加だけではなく、地域の活性化にもつなげていきたいとしている。


Ⅴ.大学の施設
CROSS Nagasaki
今年3月、長崎大学はオープンイノベーションの創出、発信拠点「CROSS Nagasaki」を設置した。この施設は、内閣府の2023年度「地域中核大学イノベーション創出環境強化事業」を活用し、総事業費1億7,800万円かけて整備しており、2階建て、延床面積は424㎡である。
当施設は、研究開発を支援する人材や、リサーチアドミニストレーター(URA)[8]が集まる場所として、半導体や水産など県が次世代を見据えた基幹産業と位置付ける産業分野でのイノベーションの創出を目指している。長崎大学文教キャンパスの正門近くに立地していることから、大学のランドマークともなっている。


CROSS NagasakiのCROSSは、「コラボレーティブ・リサーチ・アンド・オープン・サイエンス・ステーション」の頭文字をつなげて名付けられたものである。同所の1階には多様な人材が集い、相互交流できる場所としてのフリースペースが多数設けられており、2階にはURAのオフィスとして、同大学の「産学官連携推進室」や「知財戦略室」、「FFGアントレプレナーショップセンター」が入居している。
ここでは、起業に関心を持つ学生を対象に、毎週水曜日16時から「アントレゼミ」が開催されている。このゼミには、情報データ科学部、水産学部、工学部などから、毎回10名程度の学生が学部の垣根を越えて参加しており、起業に向けてアイデアを出し合うディスカッションが行われている。
[8]大学などの研究組織において研究者および事務職員とともに、研究資源の導入促進、研究活動の企画・マネジメント、研究成果の活用促進を行って、研究者の研究活動の活性化や研究開発マネジメントの強化を支える業務に従事する人材を指す。
さいごに
わが国におけるコワーキングスペースの歴史は、まだ15年程度と浅いものの、コロナ禍を機に全国で急増したことがわかった。もっとも、その利用者数は低迷しており、これを増加させるためには、それぞれのコワーキングスペースにおける取組みに工夫が求められよう。コワーキングスペースは、そこに集まる人々にとって、1人で働くことの孤独感を解消したり、ネットワークを通じて新たな事業やアイデアを創出したりするなど、多様なメリットを創出する場所となる。そのため、地域のコワーキングスペース同士の交流イベントを開催することによって、利用者の増加につなげていくような活動が求められるのではないだろうか。コワーキングスペースの活用により新たなイノベーションが起こり、長崎が若者に支持される「まち」となることで、若い世代の移住・定住が進み、地域活性化に繋がることを期待したい。
(2025.9.16 泉 猛)