※表題【前編】では、南島原市における取組みを紹介した。本編では、五島市と一般社団法人長崎県観光連盟の取組みを中心に紹介する。
Ⅲ.五島市におけるサイクルツーリズムの取組み
五島市では、2018年6月から県や五島振興局などが参加する「長崎県サイクルツーリズム推進協議会下五島地域(準備)部会」にて協議を重ねてきており、2021年3月に「五島市自転車活用推進計画」を策定した。そのなかで、2020年 8 月に下五島地域サイクリングルート6コースが決定している。
1.サイクリングルートの整備
サイクルツーリズム推進協議会下五島地域部会にて、同6コースを検証したところ、道幅が狭いことから、新たな自転車道を整備することは不可能なことが判明した。したがって、同コースでは、自転車専用道路ではなく車両が走行する道路を自転車も走ることになる。このような背景もあり、五島振興局道路課では市と連携し2020~21年にかけて、このコース上に行き先を明示した案内標識の設置や路面標示、1kmごとのブルーライン表示など、ハード面を優先して整備した。
(※写真①、②は国土交通省 HP より)
また、各コースにあるトイレの近くには、自転車を立てかけることができるサイクルラックとエアポンプ(空気入れ)BOXをセットで備え付けている。
(※以下、写真3枚は五島市提供)
2.これからに向けて
五島市では、まずサイクリングルートの環境整備が行われており、関連イベントの開催などソフト面はこれからである。さらに、自転車活用推進計画も2024年度が最終年度となっていることから、今年度内にその再策定を行い、引き続きサイクルツーリズムを推進していくこととなる。
また、本年(2024年)4月からは、地域おこし協力隊の隊員が協力隊公式facebookにて、下五島のサイクリングコースを自ら自転車で走ったことを発信している。そこでは、コースの距離感や所要時間など、実際に走ったことがある人の目線での情報が投稿されている。
加えて、国はサイクルルートにナショナルツーリズムへの対応、つまり外国人観光客に対応した整備も求めているが、五島市における英語・中国語・韓国語などの多言語表記への対応は、サイクルツーリズムに限らずまだこれからのようだ。
一般社団法人長崎県観光連盟は、今年3月、安田産業汽船株式会社と協働して自転車と船で巡る旅行商品「ながさき大村湾サイクルージング」を始めた。この商品名は、サイクリングとクルージングを掛けあわせたもので、自転車とともに船に乗って、大村湾沿いの4つの港を中心とした4コースを自転車で旅するローカルツアーである。自転車はレンタル(電動アシスト付き)、持ち込みともOKで、1日3便の運航から希望の便を組み合わせて楽しむという、海からまちを訪ねる新たな観光スタイルを提案している。
利用者は、まず琴海と大村、長与、時津の4港のなかから乗船する港を決める。そして、琴海エリア、大村エリアなどと行きたいエリアを決めて、下船した港を中心としたサイクリングエリアごとのモデルコースを楽しむ。それぞれのエリアでは体験メニュー(料金別)も用意されており、自分流に周遊できるようになっている。
※以下、2つとも長崎県観光連盟提供(クリックすると拡大)
◇利用状況について
ツアーの実施日は、船の航路認可が年間30日という規定から、梅雨の時期や真夏の酷暑を避けた3~5月、9月~11月の特定日(基本的に土日)としており、現在は9月以降の予約を募集している。
3月中旬~5月の約2ヶ月半の利用状況をみると、雨天から催行中止となることが多かったものの、10代から70代までの男女、約50名(うち、県内から40名ほど)がサイクルージングを楽しんだ。同連盟によると「まずは地場に定着させることを目的に県内プロモーションに力を入れたことから、長崎県民の利用者が多かったと考えられる」とのことであった。
※以下、2つとも長崎県観光連盟提供(クリックすると拡大)
Ⅴ.課題など
わが国におけるサイクリングを通じた観光事業の振興と、その結果もたらされる地方創生、ならびに雇用創出を推進するための研究、啓発、教育、助言を目的とするJCTA(一般社団法人日本サイクルツーリズム推進協会~Japan Cycle Tourism Association~)は、サイクルツーリズムについて、次のような課題があるとしている。
JCTAは、このような課題から、サイクルツーリズムが必ずしもビジネスに結びついていないのが実情だとしており、その原因は、例えばレンタル自転車を揃えてサイクルステーションを設置するなどといったハード面のみに偏った施策にあるとしている。
県内の自治体においても、サイクルツーリズムの推進に関してはハード面の整備もあり、建設課が中心となっているところが多い。ハード面の充実だけでは、サイクルツーリズムが一過性の取り組みで終わる施策の1つとなってしまう可能性があり、これをもう一歩進めていくためには観光課や観光協会などといった観光関連部門との連携が必須となろう。
JCTAも指摘している通り、地元住民と行政、自転車関連業界、観光業界など全てのステークホルダーが自転車に対する理解を深めることがポイントである。
おわりに
サイクルツーリズムは、エコで新しい旅の形である。それを受け入れる側は「自転車」という乗り物の性格上、可能な限り安全で快適な旅を支える環境を整えておくことが必要となる。旅に自転車を気持ちよく利用してもらうためには、やはり車が行き交う公道との棲み分けをどう導くのかの問題が大きく、“鶏が先か、卵が先か”の話になるが、五島市のように、地域の実情で自転車専用道が整備できないところなどは、まず標識の設置など環境整備から始めるしかないのが実情となっている。
一方、南島原市のように、車が侵入しない鉄道廃線跡があり、それを自転車歩行者専用道路に転換できるようなところは、サイクルツーリズムの推進には良好な環境にあると言えよう。
南島原市南有馬町長浜架道橋付近の自転車歩行者専用道路の空撮
域内におけるサイクルツーリズムの興隆には、環境整備と合わせて 観光を推進する部署と連携しながら、そのアピールや受入れの体制を構築することで、サイクルツーリズムの推進を図ることが必要であろう。いずれにしても、自治体自身がサイクルツーリズムの推進に熱心なのかどうかに左右されそうである。
(2024. 9.20 杉本 士郎)