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長崎経済研究所

長崎県出身大学生の新卒Uターン就職の促進

 人口減少が著しい長崎県では、若者の県内定着が喫緊の課題となっている。そこで本稿では、県内の高校から県外の大学に進学した学生の新卒Uターン就職を促進する取組みについてレポートしたい。

1.県外大学への進学および新卒Uターン就職の状況

 「学校基本調査」(文部科学省)によると、ここ10年、長崎県内の高校を卒業して大学に進学した人は5,000人台で減少傾向にあり、2022年3月は5,521人となっている。

 県外進学先を都道府県別にみると、最も多いのが福岡県の1,157人(県外の33.4%)、次が東京都で408人(同、11.8%)、以下、熊本、佐賀、山口の順となっている。福岡県と東京都を含む首都圏(633人、同18.3%)を合わせると、約半数(51.7%)にのぼる。

 このように、大学進学者のうちおおよそ6割は県外に進学しており、そのうち約半分が福岡ないし首都圏の大学を選択している。また、そこから長崎県にUターン就職するのは2割ほどにとどまる。

※学校基本調査では「大学等」(=大学、短期大学、その別科・通信教育部、高等学校専攻科、特別支援 学校高等部の専攻科)としているが、本稿では単に「大学」と表記した。


2.新卒Uターン就活における障壁

(1)移動に伴う経済的負担

 ある民間の全国調査では、「就職活動(以下、就活)で大変だったこと」の第1位は「旅費」であった。県外在住の学生にとって、本土最西端の長崎での就活はとくに、地理的距離に起因する移動時間の長さが効率を下げるとともに、経済的に負担となっているものと考えられる。

 ネット環境が整い、コロナ禍の影響もあってweb面接が普通のことになった昨今では、そのような負担は軽減されつつある。しかし、コロナ禍が落ち着きをみせるとともにリアル面談が復活する傾向にあることから、このような障壁はなお存在するといえるだろう。


(2)学生が求める情報の少なさ

 同じく、よく指摘されるのが、長崎の企業の情報が少ないということである。

 学生の多くが利用する大手の就活情報サイトは、大都市圏の企業が中心となり、県内企業の情報は埋没しがちである。同様に、県外で開催される就活イベントでは、参加企業はその地に本拠を持つ企業が主になるため、そこでも長崎の企業は目立たないことになる。

 企業や行政は情報を発信していても、学生に情報が届いていない(学生の目にふれていない)という側面が強いのではないだろうか。


3.県外大学生の新卒Uターン就職を支援する取組み ~長崎県の施策を中心に~

(1)施策の概要 

 長崎県は、「長崎県総合計画 チェンジ&チャレンジ2025」の基本戦略に「若者の県内定着、地域で活躍する人材の育成を図る」を掲げ、その施策のひとつとして「県外大学生のUターン就職の促進・支援」をあげている。

 そこでは、「福岡県及び首都圏の大学等に進学した長崎県出身者のUターン就職者数」を、2018年度の204人から2025年度には340人に増やすことを目標としている。2021年度は269人であった。


(2)具体的な取組み(図表1)

①「ながさきUIターン就職支援センター」の設置

 長崎県は、福岡県の大学で学ぶ長崎出身の学生に長崎での就職を働きかける拠点として、2019年10月、福岡市内に「ながさきUIターン就職支援センター」を設置した。

 主な業務は、UIターン希望者の就職相談、福岡県内大学への働きかけ、長崎県企業と学生との交流会の開催などである。大学の就職課等を通して、企業や県の就活支援事業に関する情報を学生に案内しており、学内での就職説明会などにも出向いている。


②県外大学との就職連携協定の締結

 長崎県は、県外大学との間に、情報提供やイベント開催などで連携するUIターン就職連携協定の締結を進めている。両者が連携することで学生の就活が円滑に進むとともに、大学にとっては就活サポートを充実させることで魅力向上につながることが期待される。現在8大学、九州では2022年9月の久留米大学をはじめ、久留米工業大学、九州産業大学と締結しており、成功事例を積み重ねながら新たな締結を進めていく計画である。


 協定締結先のひとつである久留米大学には、長崎県から例年90人前後が入学しており、2023年3月卒の県内出身で就職した72人のうち、県内に就職したのは19人である。

 協定締結後、2023年1月に長崎県内企業と学生の交流会を開催したのを皮切りに、企業見学ツアーなどを実施している。2024年2月の見学ツアーには長崎県出身者を含む学生22人が参加し、長崎の自治体や企業5社を訪問した。参加した学生からは、「長崎にこのようないい企業があると知らなかった」、「長崎県外での就職を考えていたが、県内という選択肢が増えた」など、新たな発見を喜ぶ声が多かった。


③「ながさきUIJターン就活費用補助金」

 県外在住で県外大学に通う学生(出身地は不問)に、長崎県内での就活にかかる交通費や宿泊代を県が補助する取組みもある。九州在住であれば1万円、四国・中国・近畿は2万円、中部・関東は3万円、東北・北海道は4万円(いずれも上限額)が補助される。

 就活生にとって経済的負担が軽減されることから、増加傾向で推移している。


④「産業人材育成奨学金返済アシスト事業」

 大学を卒業(出身地・居住地・大学所在地は不問)した後、対象業種の企業等の県内事業所に就職し、一定期間勤務した者に対し、学生時代に貸与を受けた奨学金の1/2を支援する(上限150万円)制度もある。他県に比べてこの支援額は高い(平均100万円ほど)。

 条件を満たして実際に支援を受けたのは、2021年9人、22年11人、23年16人であった。


⑤webサイトやSNSによる情報発信

 長崎県が運営する「Nなび」(ながさき県内就職応援サイト)は企業情報、求人情報や企業説明会などのイベント情報などが掲載されているほか、他の就職情報サイトにもリンクしている。そのほかにも、自治体やテレビ・新聞業界などが情報を発信している。


4.大学生の意識調査からみる新卒Uターン促進のポイント 


 長崎県が行った「大学生の就職意識アンケート調査分析結果(2019 年度~2022 年度)※」(2023年12月、長崎県統計課)をもとに、新卒Uターン促進のポイントを探ってみよう(図表2、3)。

※対象は長崎県内および福岡県内の大学1年生から3年生。福岡県内の大学生は2020年度から。


(1)大学との関係構築

 「就職先決定にあたり影響を受ける人」の上位に「大学の先生」と「大学やハローワークのキャリアアドバイザー」がある。その点から、先にあげた「ながさきUIターン就職支援センター」の活動や県外大学との就職連携協定の締結といった取組みは重要であり、今後の進展が期待される。

 また、企業においても、求人票の早期かつ積極的な提出や、企業説明会などの機会を通して大学との関係の構築ができれば、採用活動が円滑になるものと考えられる。


(2)親への情報提供

 「就職先決定にあたり影響を受ける人」の上位には「母親」と「父親」もあがっている。また、長崎県出身学生が「県内就職を希望する理由」の上位に「親・親戚の側にいたいから」がある。このことから、就活における親の影響力は大きいことがうかがえる。

 長崎県は、奨学金返済アシスト制度を大学進学前に保護者に向けて紹介しているほか、保護者を対象とした地元企業の見学ツアーも実施している。また、長崎市は保護者向けの就活セミナーを継続して行っている。


(3)学生との接点強化

 長崎出身学生が「県内での就職を希望する理由」の1位は「地元だから」である。そのことを考えると、地元と学生のつながりを通して就活をサポートすることが望まれる。

 一例として、2024年2月に大村市と長崎県共同でオンライン就職個別面談会が開催された。これは、大村市が市出身の学生などに向けて、イベント情報や企業・農業の採用やインターンシップなどの情報を配信する「大村~つながるプロジェクト公式LINE」と連携したものである。ながさきUIターン就職支援センターと大村市の職員が学生の相談に応じた。このような学生との交流を活発にしていくことが大切であろう。


(4)企業における採用の体制づくり

 「就職先決定に影響を受ける人」として「就職先企業の人事担当者」が上位に入っている。昨今の学生はインターンシップなどでその企業や社員を見定める傾向にある。企業側はそのような学生に自社の魅力を伝えるとともに、大学との関係を構築する息の長い活動ができるような人材と体制づくりが必要になる。相手が県外となるとなおさらである。

 とはいえ、長崎県内の多くの中小企業にとって常時採用専担者を配置するのは困難なこともあるだろう。そうであれば、行政や業界、あるいは学生のネットワークなどと連携することが望まれる。

 

 ここ数年、コロナ禍もあり地方回帰の傾向がみられたが、それが今後も続くとは限らない。しかしながら、長崎(地元)に戻って就職したいという学生は一定数存在すると考えられる。長崎県内企業が新卒採用を考えるとき、そのような新卒Uターンを希望する学生にも大きな関心を寄せてほしい。

(2024.3.13  宮崎 繁樹)

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