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長崎経済研究所

離島で活躍する企業
壱岐の恵みをその一膳に~株式会社若宮水産「壱膳」~

■‘若宮ブランド’で知られるアワビ・サザエの専門商社

 長崎県の壱岐島周辺は、対馬暖流と九州沿岸流が交差して潮境が形成されることから、イカ、ブリなど多くの魚が集まる‘魚の宝庫’と呼ばれており、サザエやアワビ、ウニなどの好漁場となっている。

 その壱岐島でアワビ・サザエ専門商社として1961年(昭和36年)から事業を営んでいるのが株式会社若宮水産(壱岐市芦辺町、坂本晋秀社長)である。長崎県は全国有数のサザエの産地であるが、同社はその買付で50年にわたりトップシェアを誇っており、東京の豊洲市場でも‘若宮ブランド’として高い評価を受けている。


「壱膳」のアワビ、サザエ、うにめし。右端はふるさと納税返礼品として人気の「寒ブリしゃぶしゃぶ」。


■壱岐の恵みを食卓に届ける自社ブランド「壱膳(いちぜん)」

 生鮮魚介類の卸売りを事業とする同社であるが、海水温上昇などによる水産資源の減少や消費者の嗜好の変化に対応するため、水産物の加工に力を入れている。2008年(平成20年)には、壱岐の海産物や郷土料理を家庭で簡単に食べられる自社ブランド「壱膳」を立ち上げ、地元材料にこだわった魅力ある商品を展開している。壱岐の代表的郷土料理である「うにめし」、「ぶりめし」をはじめ、サザエやイカ、タコ、あごだしを使った炊き込みご飯の素やカレーシリーズ、さらにはブイヤベース、ピザ、アヒージョなど多種多彩である。


 このうち「サザエカレー」は、海女が素潜りで獲ったサザエを贅沢に使ったもので、おいしさに珍しさも加わって全国キー局の番組でも取り上げられた。また、「寒ブリしゃぶしゃぶセット」は、脂の乗った旬のブリを高鮮度のうちに刺し身にして急速冷凍したものと、国産大根をすりおろした特製スープとポン酢、柚子胡椒をセットにしたもので、ふるさと納税サイトにおいて壱岐の返礼品として一番人気になった。


「壱膳」炊き込みご飯シリーズとカレーシリーズ(一部)。パッケージの版画も味がある。


■壱岐の良質な食材を使った商品開発

 坂本社長は、壱岐の良質な食材を島外のもっと多くの人に食べてもらいたいという思いから、故郷に戻り家業を継いだ。素材を見る目利きの力と市況を見る相場観に基づいて新鮮な海産物を仕入れ、好漁場である八幡半島に有する加工場において素早く加工している。

 近年は、県の補助金等を活用し、真空包装機や低温殺菌装置等を導入したことで鮮度やおいしさを保ったままの常温商品の開発が進んだ。日本ソムリエ協会認定のワインエキスパートの資格を取得し、食材を生かしたワインや壱岐焼酎にあう料理も開発している。


 開発した商品は先に挙げたものをはじめいずれも品評会等で高い評価を得ている。最近のものだけでも、長崎県内の優れた水産製品を表彰する「長崎県水産加工振興祭水産製品品評会」において、第56回(2018年度)には「タコのアヒージョ」が「長崎県知事賞」、第57回(2019年度)には「ブイヤベース」が「長崎県知事賞」、第59回(2021年度)では「有明海産芝エビのビスク」が長崎県知事賞、「壱岐サザエのクラムチャウダー」が長崎県水産加工振興協会長賞をダブルで受賞した。


長崎県知事賞を受賞したブイヤベースとそれをアレンジしたパエリア


■他業種と連携して食材の魅力アップへ

 壱岐のおいしいものを提供するという観点から、海産物以外にも壱岐焼酎や壱岐牛などの地元産品を使用するとともに、他業種と連携した商品開発やコラボにも意欲的に取り組んでいる。たとえば、「壱岐牛入り柚子キーマカレー」は島特産の壱岐牛と柚子を活かすべく壱岐柚子生産組合と共同で開発したものであり、柚子はピザにも使用している。また、「黒鮑煮貝」は壱岐焼酎で風味を利かせており、アヒージョは壱岐産の藻塩で味を調えている。まさに、壱岐のおいしさが詰まった商品づくりを行っているといえるだろう。

壱岐牛入り柚子キーマカレー(調理例)


 また、本社・加工場がある八幡地区は海女漁が盛んなことから、休漁期の海女を雇用するなど地元漁業者の所得向上にも貢献している。

 このような事業展開が地域の魅力と知名度向上に大きく貢献していると評価され、「令和元年度ながさき水産業大賞」(地域の特色を生かした先進的な水産業を展開し成果を上げている個人や団体を表彰するもの)の「魅力ある経営体部門」で「特別賞(ながさき水産業大賞運営委員会長賞)を受賞した。


■食材を通して壱岐の魅力を発信

 商品の高評価を受け販路も広がっている。島内においては、芦辺港ターミナル(博多・厳原との航路)近くにある直営ショップを2020年3月にリニューアルして、同社商品を手軽に楽しめるイートインを併設した。同社商品の他にも壱岐の産物を販売しており、同じ町内に酒蔵を持つ壱岐焼酎「壱岐の島」を楽しむことができるほか、食卓を彩る波佐見焼のカレー皿やスープボウル、マグカップなども販売している。船の待ち時間に土産品店購入や食事する場所として観光客にも島内客にも利用されている。今後は、壱岐の魅力を伝えるイベントやセミナーなどのスペースとして提供するなど、島の情報発信基地、島内外の人々の交流の場となることを目指している。


 島外についても、たとえば、県内では長崎空港売店をはじめとする土産品店で販売している他、福岡市内デパートやセレクトショップ、全国のこだわり商品を集めたセレクトショップ久世福商店(および久世福e商店)、東京における長崎県のアンテナショップである「日本橋 長崎館」でも取り扱っている。2021年8月からは、東京・羽田空港にあるANA FESTA(ANAが就航する各地の名産品などを集めたショップ)でも取り扱いが始まった。国内外で販売を伸ばしており、ふるさと納税返礼品としても上位の利用率を誇る。


 「壱岐の恵みをその一膳に」をテーマとする坂本社長の思いは、同社のみならず壱岐の島の魅力を島外に広めている。


                     -企業概要-
株式会社若宮水産    ブランド名:壱膳(いちぜん) 
代表取締役 坂本 晋秀 (さかもと くにひで)
直営ショップ:壱岐市芦辺町箱崎中山触2604  電話:0920-45-3875
本 社   :壱岐市芦辺町諸吉本村触1329-1  電話:0920-45-0225
H P   :http:www.ichizen-net.com
事業内容  :水産物卸、水産物加工販売

※写真は同社提供。  

(2022年1月17日、宮崎 繁樹)

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