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長崎経済研究所

【新しい風】いろんなコトを、長崎から

地域音楽コーディネーター  

市民団体『ことはじめ』 代表  

東山手「地球館」 館長   青栁 智子

 1997年生まれ、長崎市出身。活水高等学校普通科音楽コースを卒業後、青山学院大学総合文化政策学部に入学。同大卒業後、長崎市にUターンして活水女子大学音楽学部研究生(パイプオルガン専攻)となる。この研究生時代に「長崎の魅力的な街を活かしながら、地域のアーティストが様々な芸術活動を広げて、表現することが地域に愛されたらもっと楽しい長崎になるのでは」と考え、市民団体『ことはじめ』を発足。様々な芸術イベントを企画、実施し、現在も同代表として活動を続ける。2022年度には、長崎伝習塾「地域芸術を愛でる塾」の塾長に就任。また、2022年10月から国際交流拠点である長崎市指定文化財の東山手「地球館」の館長を務め、文化を通した多文化理解・国際交流に邁進している。

はじめに

 はじめまして、青栁智子と申します。「やぎちゃん」と覚えていただければ幸いです。この度、貴重なご縁により寄稿させていただくことになりました。今回は自分自身と長崎での活動についてご紹介させていただきますが、なんだか壮大なお役目をいただいてしまって恐縮です。まだまだ途中経過の稚拙な文章ですが、好きな音楽を聴きながら、またお茶やお酒の一杯のお付き合いに読んでいただけるものを目指して執筆しています。どうぞよろしくお願いいたします。

長崎から東京へ:大学での4年間――音楽が好き!

 私の生まれは実は福岡です。でも2歳頃には長崎にいて高校卒業までずっと長崎で暮らしていました。3歳から母に連れられてヤマハ音楽教室に通い始めました。ピアノの練習は嫌いだったものの、音楽が大好きで歌ってばかりいる幼少期。高校もやっぱり好きな音楽を学びたいと活水高等学校の音楽コースへ進学しました。ピアノを専攻しながら、副科の声楽や、ソルフェージュ・音楽理論の授業も楽しくて、音楽コースのみんなと大好きな音楽を分かち合い、たまに変なこともする(?)、幸せで充実した3年間を過ごしました。

幼少期のピアノレッスン風景
高校時代。友人と逆さピアノに挑戦!

 大学は東京へ。これは当時相当悩んでの選択だったのですが、自分の演奏技術に自信がなかったこと、当時放送部に所属していた影響でメディア(伝えること)への興味があったこと、演奏会は弾く側より作る側にやりがいを感じることを理由に、音楽大学ではなく、青山学院大学総合文化政策学部という「文化」を多角的に研究できる分野へ進学しました。ただ相変わらず大学時代も、音楽の魅力に引き寄せられる私。「音楽マネジメント」の実地研究を履修したり、他学部の音楽関連の授業も聴講したりしながら、サークルは大学聖歌隊に所属、大学チャペルのパイプオルガンを弾かせていただいたり、アルバイトも3年間音楽事務所で音楽企画に携わるお仕事をさせていただきました。

大学時代
大学チャペルのパイプオルガンを弾く

 東京は本当に多様な街で、なんでもすぐに手に入って、いろいろな人がいて、様々なあり方が認められている、というかたぶん基本的にみんな他人に無関心で(自分のことを大事にしていて)、だから案外みんな優しい、尊敬しあっている、そんな印象がよみがえってくる街です。全てが刺激的で、発見的で無意識に自分を奮い立たせられる大学時代。たくさんの経験と大切な出会いも多く与えられました。今でも、それぞれ別の場所にありながらたまに会ったり近況を報告し合うのが楽しみの一つです。

大学の同級生と
大学聖歌隊

東京から長崎へ:一般市民としての4年間――長崎が好き!

 とはいえ、東京での4年間ずっと心では故郷「長崎」を大切に思っていました。私が長崎出身だと話すと、「ちゃんぽん!」「カステラ!」「修学旅行で行きました!」などいつも嬉しい反応をいただくものです。そして音楽と同じくらいに語ってしまう長崎の話題「1年中お祭りがありまして、醤油はチョーコーしかないと思っていて、8月9日は平和集会の登校日なんですよ…」などなど、勝手に長崎親善大使活動のおかげで友人もたびたび長崎を訪れてくれています。

 そんなこんなで、東京で就職する気にはなれずうだうだしていたら、母に「一旦長崎に帰ってきたら?」と何気なく言われました。それに妙に納得してしまい大学卒業後Uターン。せっかくなのでパイプオルガンの研究をもう少し深めるべく、活水女子大学音楽学部の研究生として学び始めました。

 しかし、その時の2020年は新型コロナが猛威を振るっていた時期です。観光客が来なくなって、閑散となった長崎の街を歩いてみると改めて気づく異国情緒あふれる素敵な景色。美味しい食べ物。時間の流れがどこかゆっくりしていて自然豊かで癒される空気。…でも、なんかちょっと物足りなくて。東京時代よく目にしていた芸術や音楽が恋しいほどに、長崎の街に芸術が感じられない…。そんな風に思っていた矢先、「ながさき若者会議」の募集が目に留まりました。チラシにあった「みんなで踏み出す、はじめの一歩」という言葉に、なんかワクワクする!そう思って応募しました。

ながさき若者会議

 そこから、自分の想いに背中を押してくださるたくさんの方々に支えられて『ことはじめ』という団体を立ち上げました。「長崎からコトを、ハジメていく。」が当時の合言葉で、長崎のいろんなアーティストが長崎のいろんな場所で表現活動ができる環境を創る。長崎の人が気軽に芸術を楽しみ価値を尊ぶ文化を創る。0が1に、1が2に、3にと広がっていきますように。そんな想いで迎えた2021年1月23日。初めての『ことはじめ』をオンラインで開催しました。大学時代に授業やバイトの一環で企画や運営に携わったことはあるものの、長崎では何もかも初めての中10月に走り始めて、約3か月間という準備期間。直前まで場所が決まらず、コロナの緊急事態宣言が出る中で、本当に苦しみながら何とか開催にこぎつけられた第1回目の『ことはじめ』でした。

第1回『ことはじめ』

    『ことはじめ』Instagram

 その後約1年間、『ことはじめ』や私の想いが自分だけの行動にならないように、地域の方々とご一緒する時間を大切に過ごしました。特に長崎居留地の皆様には、現在にわたって多くの励ましとチャンスを与えていただき心から感謝しています。個人としても「地域音楽コーディネーター」の資格を取り、すべての人に音楽の楽しさと豊かさを届けるために地域・行政・企業・アーティストを繋ぐ働きを始めました。

オンライン居留地まつり
Music ナガサキ駅西口マルシェ

 『ことはじめ』の企画では、音楽や芸術をコンサートホールやライブハウス以外のところで展開しています。それは、できれば音楽や芸術を“かしこまって”ではなく、“生活の一部”として楽しんでほしいと考えているからです。「ちょっと疲れた時、お仕事帰りに美味しいものを食べるように、入浴剤入りの温かいお風呂に入るように、ちょっと良いご褒美を自分に買ってあげるように。それと同じように芸術を楽しみ、踏み込んで言えば同じ感覚で芸術という価値に気持ちよくお金を使って欲しい・・」。生々しい話になりましたが、私は真剣にそういう文化を長崎で、みんなで創れたらなと願っています。

 お陰様で、これまでの3年間で〈コワーキングスペース〉〈洋館〉〈スナック〉〈カフェ〉〈駅前〉など、様々な場所に活動が広がり、アーティストの方々との繋がりや同じ想いを持ち二人三脚でことはじめに取り組んでくださる方々にも出会うことが出来ました。合言葉を「いろんなコトを、長崎から」に変え、今後は法人化を今年の目標にしています。

かうひいと音楽の昼下がり
スナックde踊らナイト
つきまち横丁DJコーディネート
武雄☆駅スポ

    アーツ&スナックながさきフェス運動「キッサカバ」  ※上記写真6枚はクリックすると拡大

長崎から世界へ:これからの4年間?――人が好き!

※以下の写真はクリックすると拡大

 長崎に帰ってきて、たくさんの方々とご一緒させていただく中で、私は人が好きなのだなと気がつきました。それは温かみや、優しさはもちろん、楽しい、哀しいという心の動きとそれに呼応して生まれる身体表現や言葉の変化に1人として同じものはないことに、愛おしいと感じるからです。

 2020年10月から居留地の先輩方のご縁で、東山手「地球館」の運営を引き継ぎ、館長を務めています。国際交流の拠点でありながら、地域・観光の方にもお越しいただきやすいように1階を「cafe slow」としてオープンしました。このcafeの名前は「坂 slope」と「ゆっくり slow」を掛け合わせて名付けています。国籍を問わず、すべての方の人生の上り坂、下り坂の途中で、ちょっとゆっくりする時間にもなる地球館であれたらな、そんな想いを込めて。

東山手「地球館」 外観
「地球館」前館長 牛嶋さん(右)、前マネージャー 高梨さん(左)と
「地球館」のみなさんと

    「地球館」Instagram

 「国際交流」という言葉を聞いてどんなことを思い浮かべるでしょうか。“英語が話せないといけない?〇〇国の人は危ない?時間にルーズ?動物を食べない?”その答えは全て「人それぞれ」です。どんな国の人でも、性別、年齢、職業、育ってきた環境で全く異なるもの。その違いをお互いに知ったり、「その人」として受け止めて関係を築いていくこと。これは日本国内でも、小さな地域のなかでも大切なことかもしれません。私自身も現在進行形で勉強中です。

花火鑑賞会パーティ at 「地球館」
「地球館」ワールドフーズレストラン
26周年Anniversary・ワールドフーズレストラン

 多文化理解のきっかけとして本来取り組んでいた「文化」を通した企画にも力を入れています。例えば、コンサート、お茶会、ボードゲーム会など。人との関係を築く上で、その人を知る手掛かりになればと、楽しみつつ季節に合わせて準備しているものです。その時々に、お子様から地域の方、遠方の方にもご来館いただき、一歩ずつ多文化理解・多文化共生に進んでいるのではと感じています。

 また、2023年に行ったクラウドファンディングでは、70人以上の方々から多額のご支援をいただき、交流推進の大きな支えとなっています。お陰様で、最近は「Aperitif-アペリティフ-」という飲食×音楽×交流のイベントを定期開催しており、良い交流の場が創られています!

かうひいと音楽の昼下がり
居留地で楽しむ長崎のお茶
ボードゲーム会

Aperitif-アペリティフ(フランス語。「食前酒」の意)

おわりに

 私の活動の根源である芸術(Art)の語源は、ラテン語の「ars(アルス)」と、ギリシャ語の「techne(テクネ)」に由来しています。意味は「技術、技能、工芸、手仕事」。つまり人が生きるうえで必要不可欠な生活に密着したものです。加えて、私はArtを人々が生きる証が形となって表現されたものと理解しています。大きく言えば、いま私たちが現代社会を生きている一人一人が、息をし、食事をし、はたらき、喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんだりする全ての営みが芸術だと言えるのです。

 私はいま26歳です。人生、また世間の多くの方から見れば「若い」と言っていただける時期かと思います。ですが、個人的にはもう「子供」ではないし、大人であることをようやく受け入れつつ、挑戦をためらうことで老いも感じたり、大学生や高校生の輝きに目がくらみそうになる……そんな歳です。

 生物学者の福岡伸一さんの名著に「動的平衡」という言葉があります。生命は細胞レベルで自らを壊しつつ、創り変えることで保たれる「変わらないために、変わり続ける」ということ。私がとても大切にしている言葉です。

 生きていると時に〝ぐぬぬ…〟と言いたくなる瞬間もありますが、これからも常に新しく変わり続けながら人生という芸術を、音楽を楽しんでいきたいと思います。

 

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