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長崎経済研究所

西九州新幹線開業による交通体系と旅客流動の変化(2)

富山国際大学 現代社会学部

准教授 大谷 友男

はじめに

 前回は、西九州新幹線開業に至るまでの経緯と開業に伴う所要時間や滞在時間、料金の変化について見てきた。今回は、新幹線開業の運行形態の変化や利用動向、また航空機や高速バスといった競合する交通機関の旅客流動の分析から西九州新幹線沿線における人の流れがどのように変化したかを検討する。

3.西九州新幹線開業に伴う時間と料金の変化

運行本数は開業前後でほぼ変わらず

 西九州新幹線沿線の新幹線と特急の運行体系を示したものが図2である。長崎~博多間の運行本数は22往復で、1時間に1本ないしは2本の運行間隔となっており、在来線時代と本数自体に変化はない。

図2 長崎・佐世保~博多間の新幹線・特急の運行体系

資料)JR九州ホームページ、時刻表より筆者作成

 新幹線の運行パターンは、途中諫早のみに停車する速達タイプ、諫早と新大村に停車し、嬉野温泉は通過するタイプ、各駅に停車するタイプの3つとなっている。また、長崎~新大村では早朝と深夜の運行があり、通勤・通学の足として利用可能なダイヤが組まれている。

 新幹線の完成によってルートから外れた肥前鹿島へは、特急かささぎが7往復運行しており、博多~佐賀の間は41.5往復の特急が走っている。

長崎との交流は拡大

 西九州新幹線の利用者数とその伸びをコロナ禍前の2018年度との比較で見たものが図3である。

図3 西九州新幹線利用人員と2018年度比の推移

注)2018年度の数値は、諫早~長崎の特急かもめの利用実績
資料)JR九州プレスリリース、ヒアリングより筆者作成

 それによれば、毎月20万人前後の利用があり、開業から約10カ月が経った2023年7月25日に200万人を突破した。2018年度との比較では、比較対象区間が異なるといった問題はあるが、±10%の範囲の伸びとなっている。これは2004年の九州新幹線部分開業時の伸び(約2.3倍)と比べてかなり小さい。これは、時間短縮効果が小さい(博多~鹿児島中央で最速3時間47分→2時間10分)ことや増発効果がなかったことに加え、コロナ禍によって旅客流動そのものの水準が回復していないことも影響している。

 そこで同時期における九州新幹線(博多~熊本)の利用者数の伸び率と比較すると、西九州新幹線は102%に対し、博多~熊本は84%に止まっている。同時期の他の新幹線でも2018年度比で80~90%程度と、コロナ禍前の水準には回復しておらず、他の新幹線との差分にあたる10~20%分は西九州新幹線開業の効果といえよう。

4.競合する交通機関の変化

落ち込んでいない長崎~大阪の航空需要

 西九州新幹線の開業により長崎~新大阪は、博多か新鳥栖、武雄温泉で2回の乗り換えが必要となるが4時間を切るようになった。そのことで長崎~大阪の航空機の利用者数に変化はあっただろうか。

 2022年9月から23年6月までの長崎~大阪の航空旅客数は30.7万人で、2018年9月から19年6月(32.8万人)と比較すると2.1万人の減(▲6.4%)である。航空需要に関してもコロナ禍からの回復には至っていないため、大阪~鹿児島(新幹線で最速3時間42分)の動向と比較してみると、2022年9月から23年6月までは48.7万人、2018年9月から19年6月までは56.6万人で、7.9万人減(▲14.0%)であり、新幹線開業によって長崎~大阪の航空利用者が新幹線に流れたとは考えにくい(図4)。

図4 JAL・ANA大阪~九州線の輸送実績(2018~2019年同月比)

資料)全日本空輸「ANA月次輸送実績」、日本航空「JALグループマンスリーレポート」より筆者作成

 新幹線開業がほとんど影響を及ぼしていないことは、長崎~大阪の割引運賃の価格設定からもうかがえる。同区間の2023年9月の割引運賃(3日前の予約・決済が条件)は、2万6,180円からとなっているが、新幹線の料金は2万640円で、5千円以上の価格差がある。一方、熊本~大阪の航空機の割引運賃は1万8,150円からで、新幹線の正規料金(1万9,620円)よりも割安である。長崎~大阪は価格を下げなくとも航空機が優位性を確保できるという見立てがあるからこそ、このような割引運賃の設定になっているものと考えられる。

直行の利便性と価格差で利用増の高速バス

 西九州新幹線と競合する交通機関としては、九州急行バスが運行する長崎~福岡の高速バス「九州号」があげられる。九州号は、2023年9月現在、長崎~福岡間を月~木36往復、金土日祝43往復、所要時間は最速で2時間7分(西鉄天神高速バスセンター~長崎県営バスターミナル)で運行しており、開業前の特急かもめとほぼ同程度の所要時間である。

 九州急行バスへのヒアリングによれば、2022年8月にコロナ禍での需要減や燃料価格の高騰を理由に値上げも行ったが、西九州新幹線開業後は利用者が3~4割増えているという。ただし、コロナ禍前の水準には戻っていない。実際、コロナ禍前は月~金で56往復、土日祝は59往復と、現在の1.4~1.6倍の頻度で運行されていた。

 福岡~熊本の高速バスは、九州新幹線の全線開業時には多少時間がかかっても安価に移動したい人たちから支持されて、1割以上利用が増えたが、長崎~福岡に関しては、乗り換え不要というメリットも加わることから伸びが大きかったと考えられる。

 以上、(2)では、西九州新幹線開業に伴う運行形態の変化や利用動向、競合する交通機関の旅客流動の分析から西九州新幹線沿線における人の流れの変化を見てきた。

 (3)では、二次交通の状況と通勤・通学利用の実態と可能性を取り上げる。

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