ながさき経済web

長崎経済研究所

離島で活躍する企業
イルカパークを再生する
~IKI PARK MANAGEMENT株式会社~

 イルカとふれあう場所といえば、まず思い浮かぶのは水族館であろう。長崎県やその周辺に住む人であれば、佐世保の九十九島水族館「海きらら」や福岡の「マリンワールド海の中道」で、愛くるしいイルカたちがトレーナーとともに鮮やかな技を披露してくれる姿を観覧した人も多いのではないだろうか。しかし、長崎県の壱岐にある「壱岐イルカパーク&リゾート」(以下、イルカパーク)は、それとはひと味違ったふれあいの場所である。


           イルカの大ジャンプ 現在イルカ4頭とトレーナー6名が在籍する


■イルカパークの再生

 イルカパークは、壱岐島北部にある天然の入り江を仕切ってできた海浜公園で、1995年(平成7年)に壱岐市がイルカの保護を目的に創業し運営してきた施設だ。至近距離でイルカとふれあうことができる施設として年間入場者数は最高7万人のときもあったが、次第に入場者数が減少し事業継続が困難になっていった。そんなイルカパークの再生を中心に壱岐観光を振興するための「壱岐リブートプロジェクト」(以下、プロジェクト)として、壱岐市と当時内閣府の国境離島アドバイザーであった高田佳岳氏の共同出資によるIKI PARK MANAGEMENT株式会社(壱岐市勝本町、高田佳岳社長)が設立され、第三セクターとして同社運営のもと2019年4月にリニューアルオープンした。


              豊かな自然環境を生かしたイルカパーク全景


 高田社長の経歴は多彩だ。東京水産大学時代からダイビングのインストラクターとして活動。イルカに魅了されフリーダイビング(素潜り)を始め選手として世界大会に。東京大学大学院、大気海洋研究所では哺乳類と環境汚染を研究、北極にも行った。広告代理店の博報堂在籍中には、東日本大震災の復興支援として全国で花火を上げるLIGHT UP NIPPONを立ち上げた。

 
 その後、国境離島アドバイザーとして各地の離島を調査してきたが、その活動報告書に「住むなら壱岐」と書くほど壱岐は居心地の良い土地だった。2016年1月から何度も壱岐を訪れ、自然と人に魅せられた。食べ物も美味しい。生活に必要なものは揃っていてコンビニもある。船便の就航率が高く(約99%、「壱岐市観光振興計画))地続きと変わらない。


 そして7回目の訪問時に、壱岐市役所の政策企画課の職員から、イルカパーク再生への協力要請があった。高田社長ははじめ、その話を受ける気はなかった。なぜなら、飼われているイルカを可愛そうだと思っていたからだ。しかし、市担当者の熱い思いと自身の壱岐への愛着から自分が考える飼育方法を実現すべく話を受けることにした。


 イルカパークの再生にはふたつの大きな課題があった。ひとつめは、イルカトレーナーのスキルと観光施設スタッフとしてのマインドの問題であった。まずはトレーナー達と心を通わせる努力をした。そのことによって、トレーナーが動物と接するときに使っている知識と技術は、そのまま経営者やマネジメント層が社員とコミュニケーションをとるために使える技術であることがわかってきた。


 ふたつめは「稼ぐ」仕組みがなかったことだ。入場料金は200円で年間売上は500万円程度、経費3,000万円を差し引くと2,500万円の赤字であった。そのため、入場者数を増やすことと客単価を上げることに注力した。当時、壱岐島の観光客数は年間約23万人(壱岐市HP)だったが、イルカパークの入場者数は年間約2万5千人に過ぎなかった。その原因のひとつは、観光バスによる団体客を受け入れていなかったことにあった。そこで、観光バスに来てもらうよう誘致し、島外に向けて広告宣伝して認知度を高めていった。客単価対策としては、リニューアルと同時にカフェをオープンし、イルカのふれあい体験メニューを拡充した。さらに、イルカだけに頼らないアクティビティとして、サップやカヤック、キャンプや釣りなどのアウトドアプログラムも新たに展開していった。1年目の2019年度は入場者数約3万3千人、客単価857円、売上約2,900万円と順調な滑り出しであった。


            美しい海で体験するアウトドアプログラム


■コロナ禍でも売上増加、2年で自走可能に

 しかし、その矢先、コロナ禍に遭遇した。提供できるプログラムが限定されるとともに、島外客が半減し来場者数は約2万人にまで落ち込んだ。幸い、カフェのランチが島内の人に好評だったことを主因に客単価が1,571円に上昇したので、それを下支えにしながら、さらにいろいろな手を打っていった。たとえば、オンラインツアーだ。障害者施設などに好評で、イルカ飼育専門学校の授業の一環としても採用されている。オンラインで壱岐の産物を送る「イルカ商店」や「オンライン朝市」も順調だ。ゲストハウスは家族旅行や企業合宿に利用され、イルカを眺めながらのワーケーションでは人間のマネジメント研修に役立ったという感想も寄せられている。これらが奏功し売上は約4,900万円になった。それまで年間約2,500万円の赤字だった施設が、わずか2年で自走できるまでになった訳である。このプロジェクトは内閣府の「地方創生・政策アイデアコンテスト2021」において優秀賞を受賞した。


 2021年度に入り、交付金事業の終了を受けて、同社は市との共同出資から社長個人が100%出資する企業へと変わり収益性がいっそう求められるようになった。受入れ体制が整い客単価も上昇した今、コロナ禍が収束して観光客が戻ってきてくれることを心待ちにしている。


■「どこにいてもイルカとともに」

 元々イルカが大好きな高田社長は、イルカに対して調教師としてではなく、コミュニケートできる存在としてパートナーシップを築きたかった。その目指す姿はアメリカにあった。アメリカを代表するイルカのふれあい施設「ドルフィンリサーチセンター(Dolphin Research Center=DRC)」で研修を受けたとき、「ヒトと泳ぐこと」「人を引っ張ること」をイルカが餌のためではなく楽しんでやっていることを感じることができた。そこで早速、DRCが提唱する動物との信頼関係を第一に考える餌に頼らない飼育方法を全面的に取り入れるべく技術提携を結んだ。

 
 高田社長は、イルカパークを企業として再生させると同時に、「どこにいてもイルカとともに」をテーマに、ヒトとイルカの境界線が限りなくゼロに近い場所となるような空間づくりを目指している。今後も、たとえば、イルカを見ながら泊まることができるグランピングやホテルの建設、イルカと障害者とのふれあいが予約無しでいつでもできるような「誰ひとり取り残さない」態勢づくり、トレーナーの実習や就職の場となることなど、まだまだやりたいことがある。夢は、いつか、ヒトとイルカが会話するようにコミュニケーションができる日本で唯一の施設にすることだ。


                 一番人気のプログラム!イルカにごはん

                     -企業概要-
 IKI PARK MANAGEMENT株式会社 
 代表取締役 高田佳岳 (たかだ よしたけ)
 住  所:壱岐市勝本町東触2668番地3    電  話:0920-42-0759
 H  P:https://ikiparks.com
 事業内容:壱岐イルカパーク&リゾートの運営、飲食業、宿泊業、旅行業等

※写真は同社提供。

(2022年1月12日、宮崎 繁樹)     

 

この記事は参考になりましたか?

参考になったらシェアお願いします!
メールマガジン登録・解除はこちらから
メールマガジン登録/解除
«
»
Copyright © 2021 株式会社 長崎経済研究所 All Rights Reserved.

ページトップ