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長崎経済研究所

離島で活躍する企業
こだわり麺匠がつくる五島手延べうどん
~有限会社浜崎製麺所~

 長崎県の上五島を代表する特産品といえば五島うどんであろう。「知る人ぞ知る」存在であったが、マスコミ等で取り上げられるにつれ広く知られるようになり、日本三大うどんのひとつともいわれている。日常食としてはもちろん、贈答品にも使われる重宝な存在だ。

 上五島には約30軒の製麺所があり地域経済の主要な産業となっている。今回はその中から、伝統を守りながら新しいことにチャレンジしている有限会社浜崎製麺所(南松浦郡新上五島町、浜崎祥一郎社長)を紹介したい。


■こだわりの職人の技がつくり出す五島うどん

 五島うどんは、中国大陸をルーツとする日本の麺ロードの出発点といわれ、遣唐使の時代 から島の家々で受け継がれてきた。つくり方の基本は時代が流れても変わることはないが、その時代々々の人々の嗜好の変化や技術更新に応じて改良を重ねてきた。その特長である独特の艶とモチモチ感を出すためには、少しの手間も惜しむことはできない。現在のうどんづくりの工程を見てみよう。        

   ※同社HPでは製造工程を動画で紹介中  

・ミキシング(練り上げ)

 まず、塩水と小麦粉を練り合わせる。麺づくりは気温がすべてを左右するため、気温の低い冬は水を多くして柔らかく、気温の高い夏は水を少なくして固めに練る。麺の味わいは職人の手の感覚で変わる。麺づくりの最初のポイントだ。

                 生地の固さを職人が手で確認する

・切り出し・切り回し・複合

 練り上げた生地を、昔は足で踏み広げて鎌や包丁で切って1本の棒にしていたが、重労働だったため、今は機械で行っている。圧力をかけて生地を延ばし、中に含まれる空気を抜く。空気が残っていると麺にする工程で切れてしまうからだ。作業の合間に寝かせているうちにグルテン(植物性タンパク質)が形成される。この「寝かせ」もポイントだ。

・油まき

 生地同士が付着しないように麺の表面に油を塗る。ここで島特産の椿油を塗るのが五島うどんの特徴だ。椿油はオレイン酸を豊富に含んでおり、麺の酸化を防ぎ保湿効果もあるといわれている。

・細目作業・かけば作業

 直径1cmにした麺を2本の棒に8の字にかけていく。この工程も昔は手作業の技術が求められたが今は機械で行っている。その後ムロ箱に入れてじっくりと寝かせ、麺が熟成するのを待つ。各工程での寝かせ(=熟成させること)により切れにくくコシのある麺に仕上がる。浜崎社長はこの「麺の熟成」に最も重きを置いている。

・小引・大引作業

 熟成した麺を機械でまず15cmの状態から60cmほどの長さまで延ばして再び寝かせた後、最長160cmまで延ばしていく。

・ハタかけ~乾燥作業

 延ばした麺を「ハタ」と呼ばれる干し具にかけて水分を抜く。急いで乾かすと麺の中にひび割れが起こるため、ゆっくりゆっくり時間をかけて乾燥させる。8割程度乾燥した段階で下の(端っこの太い)部分をカットする。

                    麺を延ばして乾燥させる

・小割作業

 乾燥を終えた麺をハタから外して7等分に切り分けたら、熟練職人の目で優良の麺だけを選び抜いていく。


               熟練職人の目で優良な麺だけを選び抜いていく

・結束・箱詰め作業

 麺を束ねて袋詰めする作業でも異物の混入を防ぐために金属探知機と職人の厳しい目が光る。ミキシングから出荷まで3日を要する。

■五島うどんを地域を代表する産業に!

 同社は1971年(昭和46年)に父親である先代の三郎氏により創業され、浜崎社長も子どもの頃から手伝っていた。先代は常々「五島うどんを地域を代表する産業にしなければならない」と話しており、浜崎社長もその思いを引き継いで取り組んできた。


 浜崎社長は「不易流行」という言葉が好きだ。伝統の基本にこだわりつつ新しいものを探求している。まず着手したのは、手作業の工程を機械化することだ。1993年(平成5年)には現在の工場を建設し機械も揃えた。それまでの事業規模に対して大きな設備投資であったが、生産能力を向上させるには必要と考えた。


 また、稲庭うどんや小豆島、南島原の素麺業者などを視察し製造技術を研究した。一時は小豆島の素麺業者の下請けをしたこともある。下請けは採算が合わなかったが、他産地の麺づくりの技術を勉強し、機械の能力をいかにして最大限生かすかについても学ぶことができたことから無駄ではなかった。


 浜崎社長の探求心は、椿油を使わない麺を開発したことにも表れている。一度伝統から外れて、椿油の役割を違う製法でつくってみようと試みたものだ。新商品の誕生につながったのに加え、逆説的ではあるが、油を使うことのメリットを再認識することにもなった。


 このような取り組みにより、今では1日に42袋(たい)、1万食相当の生産能力を誇るまでになった。     

※「袋」…業務用小麦粉の袋をどれだけ使ったかを示すもの。1袋=25kg。


 島でポピュラーな食べ方は「地獄炊き」だ。大鍋で沸かした湯にうどんを入れて、茹で上がったらすぐにすくって、あごだしや、卵に醤油をかけたつけ汁に薬味を加えて食べる。もちろん、一般的なうどんの食べ方でも良い。夏場にはざるうどん・冷しうどんも人気がある。


              地獄炊き


 同社では、多くの人にうどんを味わってもらおうと、2017年に島内の有川郷に「麺‘sはまさき」という食事処を開店した。いずれも調理師である長男の祥雄(やすお)氏が和食、次男の洋敬(ひろあき)氏が洋食を担当し、五島うどんや丼物、定食(小うどん付)などを提供している。

■技術の伝承とデジタル化

 島の製麺所は家族経営による小規模なところが多く、職人の高齢化と後継者不足が大きな課題となっており、その一因は、うどんの乾燥が難しいことにある。

 そこで浜崎社長は、一番神経を使う温度・湿度管理をデジタル化しようと取り組んでいる。現在は、一昼夜かけて行う乾燥工程において、社長が深夜に3時間おきに職人の肌感覚で管理しているが、それを可視化して、品質との因果関係を検証していこうというものだ。この事業は「令和3年度長崎県先端技術導入促進事業」に採択され、昨年行われた実証実験の結果をもとに将来的には自動調整可能な空調システムの構築を目指していく。

 同社にとって直近の課題は、コロナ禍などの影響による小麦粉や油など仕入価格の上昇と、観光客・飲食店向け販売の減少だ。価格面についてはやむをえず今年に入り販売価格に転嫁した。また、販売面では通信販売の重要性を再認識しており、利用客へのDM戦略でリピーターを増やしていく方針だ。将来的には海外も視野に入れている。

 直面する課題はあるが、頼もしいことに、浜崎社長の子息2人も事業に携わっており、5月には祥雄氏に社長を交代する。

 そして、浜崎社長はというと、「これからも麺を訪ねて各地を回って、その土地の文化や人に出会いながら製麺方法を学び、もっと美味しい五島うどんを極めたい」と考えている。浜崎社長にとって、美味しい麺づくりはライフワークとなっている。

                  -企業概要-
有限会社浜崎製麺所 代表取締役 浜崎祥一郎(はまさき しょういちろう)
本  社: 長崎県南松浦郡新上五島町丸尾郷13  
電  話: 0959-54-1302
URL : hamasakiseimen.com
業務内容: 五島うどんの製造販売、飲食業

写真は同社提供

(2022年4月22日 宮崎繁樹)

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