はじめに
2026年7月、現実のまちを舞台にポケモンを探して楽しむスマートフォン向けゲーム「Pokémon GO(ポケモンGO)」が、サービス開始から10周年を迎えた。筆者もサービス開始当初から楽しんでいるユーザーの一人であるが、スマートフォンを片手にまちを歩きながら、ポケモンを探したり、ゲーム内のスポットとなっている現実の場所を訪れたりするなかで、このサービスが単なるゲームの提供にとどまらず、各地から人を呼び込むと同時に、開催地における人々の交流を生み出していることを実感している。
その可能性を具体的に示したのが、2025年11月7~9日に長崎市で開催された「Pokémon GO ワイルドエリア:長崎」(主催:Niantic、共催:長崎県・長崎市、協力:株式会社ポケモン)であった。長崎市における開催が発表された際、筆者もネットで市内ホテルの予約状況を確認したところ、早い段階から予約が埋まっており、同イベントへの関心の高さを実感した次第である。


本稿では、世界的なコンテンツ「Pokémon GO」の長崎市における開催事例を通じて、その集客力に着目するとともに、開催地における宿泊需要の喚起や、訪れた人の回遊など、地域経済に与える影響とデジタルコンテンツを活用した地域振興の可能性について考える。
1.世界的なコンテンツが生み出す「集客」
Pokémon GOは、2026年7月までの世界累計ダウンロード数が8億超、その累計収益は90億ドルを超えるなど、世界規模のデジタルコンテンツへと成長している。10周年を迎えた現在、世界各地で大規模なイベントが開催されている。
このゲームは、ポケモンという世界的なブランドとスマートフォンの位置情報とを組み合わせることで、現実のまちを舞台に楽しむゲームとして、従来のゲームとは異なる市場を切り開いてきた。同ゲームには、現実の場所と連動した「ポケストップ」や「ジム」1)などがあり、プレーヤーはゲームを楽しむために外へ出て、歩きながらさまざまな場所を訪れる。ゲームをすること自体が、外出や移動のきっかけとなる仕組みになっている。
このような特徴を生かして、「Pokémon GO Fest」(特設会場と開催都市を組み合わせたイベント)や「Pokémon GO シティサファリ」、「Pokémon GO ワイルドエリア」(街や広いエリアを舞台にしたイベント)などの関連イベントが、世界各地で開催されている。世界的な人気を持つポケモンを活用したこのゲームは、関連イベントの開催地に国内外から多くの人を呼び込んでいる。
1) 「ポケストップ」は、現実の公園や建物などに設定されたゲーム内のスポットで、アイテム(ポケモンを捕まえるのに必要なモンスターボールなど)を入手できる場所。「ジム」は、プレーヤー同士の対戦や協力プレーなどを行うゲーム内の拠点で、いずれも実際の場所と結び付いている。

昨年、長崎市で開催された「Pokémon GO ワイルドエリア:長崎」では、3日間で延べ約42万人2)がプレーするなど、大規模な集客を実現した。筆者がゲームをプレーするなかで確認できたプレーヤーの居住地だけでも、熊本、岡山、愛知、東京など国内各地に加え、米国・ニューヨーク、インドネシア・東ジャワ、ペルーなど海外も確認できており、実際に多くの外国人プレーヤーを目にしたのである。国内にとどまらず、海外からも長崎を訪れる人も多数いたことから、同イベントの集客力の大きさがうかがえよう。
2) 長崎県「令和7年11月定例県議会における知事説明」(2025年11月26日)および長崎市「市長記者会見(定例)」(2025年11月18日)を参照。

2.「集客」から「回遊」へ
「Pokémon GO ワイルドエリア」は、2024年に福岡で開催された初めての大規模イベントである。2回目の開催となった長崎では、特定の公園などを主な会場とするのではなく、長崎市全体が舞台となった。長崎市長も、2025年11月18日の定例記者会見で、このイベントを「長崎市の街全体を会場にして周遊するという新しい形である」と説明している。
同イベントでは、市内各所を巡りゲーム内でスタンプを集める企画(GOスタンプラリー)も行われ、参加者は指定された場所を回り、最後に長崎スタジアムシティを訪れることで、長崎ゆかりのポケモン「デンリュウ」3)をゲーム内で獲得できる仕組みとするなど、参加者の回遊を促す工夫も施されていた。
筆者がイベント会場の一つである長崎スタジアムシティを訪れた際にも、施設内やその周辺は多くのプレーヤーで賑わっていた。世界的なコンテンツによって国内外から長崎市に人を集めただけでなく、市内各所をゲームの舞台としたことで、来訪者が複数の場所を巡る回遊も生まれたのである。つまり、今回の「Pokémon GO ワイルドエリア」の開催は、「集客」に加えて「回遊」を促す仕組みを備えたイベントだったといえる。
3) 長崎ゆかりのポケモンで、2024年6月に長崎県の「ながさき未来応援ポケモン」に就任した。遠くまで届くしっぽの光が長崎の灯台を連想させるほか、長崎に伝わるわらべ歌「でんでらりゅうば」と名前が似ていることなどが選定の理由となっている。

こうした集客と回遊は、宿泊の喚起にもつながった。長崎県の2025年10~12月の観光動向調査によると、主要宿泊施設の延べ宿泊客数は前年同期比5.9%増加している。また、主要観光施設の利用者数も14.4%増加するなど、これらの増加要因の一つとして、「Pokémon GO ワイルドエリア:長崎」の開催が挙げられている。
このような、宿泊の動きについて、長崎旅館ホテル組合に話を聞いたところ、同イベントの期間中は県外からの宿泊者に加え、外国人宿泊者も多く、長崎市内だけでなく大村市や諫早市など周辺地域でも宿泊施設の予約が埋まる状況がみられたという。特に、イベント開催の発表から実施までの期間が短かったこともあり、予約が一時的に集中し、宿泊施設の受入れが逼迫する状況となったほか、宿泊料金も大きく上昇したとのことであった。このように、イベントの開催期間における宿泊の多くは、Pokémon GOを目的とした来訪者によるものだったようである。
このことからも、今回のイベントが単に多くの人を長崎市に呼び込んだだけでなく、県外・海外からの宿泊需要を生み出し、その一部が長崎市内だけに収まらず、大村市や諫早市など周辺地域にまで広がったことがうかがえる。世界的コンテンツによる「集客」と、まちを歩いてもらう「回遊」が組み合わされることで、地域経済への波及が生まれた事例といえる。
このイベントは、他地域でもその経済効果が確認されている。2024年に仙台市で開催された「Pokémon GO Fest 2024:仙台」では、ゲーム参加者約37万9,000人、経済効果は約74億円と発表された4)。ゲームを目的に訪れた人の宿泊、飲食、買物、交通などの消費が、地域のさまざまな産業に波及したものと考えられる。
4) 仙台市「市長記者会見 その他質疑応答」(2024年8月27日)を参照。
3.「回遊」から「再訪」へ
Pokémon GOの事例から、デジタルコンテンツを地域振興に活用する際の重要な視点が見えてくる。まず第一に、「集客」と「回遊」を組み合わせることである。世界的なコンテンツにより、国内外から呼び込んだ来訪者が長崎のまちを歩いて、飲食や買い物を行い、また長崎の歴史や文化に触れるために観光施設を利用することなどによって、地域経済への波及効果が期待できる。第二は、来訪者の「再訪」につなげることである。ゲームをきっかけに長崎を訪れた人が、食や歴史、文化、まちなみなどに魅力を感じてもらうことで、次はゲーム以外の目的で訪れてもらう可能性もある。デジタルコンテンツを地域の魅力を知ってもらう入口として活用することが、継続的な誘客につながると考えられる。
長崎には、歴史や異国文化、世界遺産、平和、食べ物、夜景など、多様な地域資源がある。長崎駅周辺の整備や長崎スタジアムシティの開業によって、まちの魅力や楽しみ方も広がっている。こうした地域の強みをデジタルコンテンツと結び付け、これまで長崎との接点が少なかった人にも魅力を伝えていくことが、今後の地域振興におけるポイントとなるだろう。


おわりに
Pokémon GOの10周年を振り返ると、ゲームには「人を呼ぶ力」だけでなく、「人をまちへ動かす力」があることを改めて感じた。長崎のイベントでは、国内外から約42万人の人が訪れており、普段見慣れている長崎のまちに、スマートフォンを片手に歩く人々の姿が街のいたるところで見られた光景は、非常に印象的であった。
長崎開催単独の経済波及効果は明らかになっておらず、飲食や買い物などの消費額についても詳細はわかっていない。しかし、長崎旅館ホテル組合へのヒアリングからイベントを目的とした宿泊が生まれたことがわかっており、その一部が周辺地域にも広がったことも確認できた。デジタルコンテンツが、地域への集客を生み、回遊を促し、地域経済に波及する可能性を示した事例として、今回の長崎開催には大きな意味があったものと考える。
人口減少が進むなか、交流人口を拡大するためには、地域そのものの魅力を磨くことに加え、国内外にファンを持つさまざまなコンテンツとの連携も有効な手段となる。各種のコンテンツにより生まれた効果を、その場限りのものにしないことが肝要であろう。
今回のPokémon GOワイルドエリアの長崎開催を通じて、デジタルコンテンツと地域の魅力を組み合わせることに、さらなる大きな可能性があると感じた。ゲームを入口にまちを訪れた人が、そのまちの食や歴史、文化、まちなみなど魅力に出会い、再びそのまちを訪れる。このような流れをつくることができれば、一過性のイベントを継続的な交流人口や「地域のファン」の創出につなげることができるのではないだろうか。
(2026.10.30 永山 真)