ながさき出島インキュベータ(D-FLAG)
インキュベーション支援専門員 榎 一州

ながさき出島インキュベータ(D-FLAG) 外観(出所:独立行政法人 中小企業基盤整備機構HPより)
1. 地方での起業は、孤独になりやすい
地方で起業する人は、都市部に比べて孤独を感じやすいのではないかと思います。人口が少ない分、起業する人の数も限られ、都市部なら何気ない会話の中で解決できる悩みも、一人で抱え込みやすくなります。
例えば、起業初期には、経費の集計など、事業の本筋とは別の業務にも時間を取られます。「経費作業の時間がなかなか取れなくて」と誰かに話したとき、「今ならAIでこういうことができますよ」と教えてもらうだけで、自分で抱えるしかないと思っていた作業にも、別の選択肢が見えてきます。起業するうえで本当に怖いのは、課題があることそのものではなく、課題を一人で抱え込んだまま、事業が停滞してしまうことです。だからこそ、挑戦する人が孤独にならない環境をどうつくるかが大切なのではないでしょうか。
2. 起業支援は、孤独にさせないことから始まる
起業すると、集客や営業、財務管理、外注先とのやり取りなど、向き合うべき業務が一気に増えます。とはいえ、そのすべてを最初から一人で完璧にこなせる人はほとんどいません。だからこそ、「こんなとき、ほかの経営者はどうしているのか」が身近に分かることは、大きな支えになります。売上が伸びない、価格設定に迷う、人を雇うべきか悩む。そんなときに、「自分はこうした」「この人に相談してみるといい」と声をかけてくれる人がいれば、次に考えるべきことや試すべきことが見えやすくなります。
地方に求められる起業支援は、補助金や制度を紹介することだけではありません。挑戦する人の姿が見えること。困ったときに話せる相手がいること。一人で答えを出さなくてもよい環境があること。起業支援の出発点は、挑戦する人を孤独にしないことだと思います。
3. 長崎には、顔の見える支援がある
私が長崎に戻って感じたのは、起業家や事業者を支える仕組みが、想像以上に身近にあるということです。長崎県や長崎市、大学、金融機関、よろず支援拠点、国の中小企業支援を担う中小企業基盤整備機構(通称・中小機構)など、さまざまな機関が、創業や新規事業への挑戦を支えています。
例えば、よろず支援拠点では、売上拡大をはじめ経営改善なども相談できます。中小機構にも、経営課題に応じて専門家の助言を受けられる仕組みがあります。大学の研究者や技術シーズと連携し、他社と差別化できる商品やサービスを生み出すことも選択肢の一つです。
一方で、「自分が相談してよいのだろうか」「何を相談すればよいのか分からない」と利用をためらう人もいます。しかし、支援機関には、制度を説明するだけでなく、挑戦に寄り添おうとする人たちがいます。県にも、市にも、大学にも、そして支援機関にも、「挑戦する人の力になりたい」と考えている人がいます。支援者と顔の見える短い距離でつながれることは、地方ならではの強みです。
4. 話してみることで、課題の輪郭が見えてくる
起業初期の悩みは、最初からきれいに整理されているとは限りません。本当の課題がどこにあるのか、自分だけでは見えにくいこともあります。日々の仕事に追われるなかで、自分のビジネスを客観的に見つめ直す時間を持てないことも少なくありません。誰かに話しているうちに、「集客が課題だと思っていたけれど、実は商品そのものに改善の余地があるのかもしれない」と気づくことがあります。悩みを言語化することで、漠然とした不安が具体的な課題に変わり、次に取るべき行動も見えやすくなります。
相談する前に、内容を事前に整理しておく必要はありません。「まだうまく言葉にできないけれど、少し話してみたい」。そのくらいの段階から相談してよいのだと思います。
5. 挑戦は、仮説を立て、試し、見直すことの積み重ね
私は、起業や新規事業において、単純な意味での「成功」や「失敗」はないと考えています。大切なのは、仮説を立て、試し、結果を見直すことを繰り返していくことです。「これはきっと売れる」と思ってリリースした商品が、思うように売れないことは、どの企業にも起こり得ます。これを単純に失敗と片づける必要はありません。顧客が違ったのか、価格が合わなかったのか、伝え方に課題があったのか。結果をもとに見直し、もう一度試す。そのPDCAの繰り返しが事業を育てます。
ただ、仮説検証を一人で続けるのは孤独で大変な作業です。一度うまくいかなかったとしても、それは失敗ではなく、次の仮説を考えるための材料です。だからこそ、結果を客観的に振り返り、次の一手を一緒に考えてくれる人が必要だと考えます。
6. 場所ではなく、環境を選ぶ
創業期に事務所の場所を選ぶとき、賃料や設備だけでなく、どのような人たちの近くで働くかも大切です。近くに挑戦を続ける起業家や経験値のある経営者がいれば、日々の会話や仕事ぶりから刺激を受け、自分の基準も上がります。近くで挑戦する人の姿は、別の誰かの挑戦を後押しする力になります。
居住地の近さから生まれる人間関係が、仕事の情報や紹介につながることは、労働市場に関する研究でも示されていますが、これは仕事の拠点にも通じるのではないでしょうか。普段から顔を合わせ、相手の人柄や得意分野を知ることで、「この仕事なら、あの人に相談してみよう」という関係が育まれるはずです。大切なのは、単に仕事をする場所を借りることではありません。挑戦する人の姿が見え、困ったときには支え合い、新たなつながりが生まれる環境を選ぶことだと考えています。
7. 挑戦を支え、つながりを生む場所
こうした環境の一つとして、長崎市出島町に「ながさき出島インキュベータ」、通称D-FLAGがあります。
D-FLAGにはインキュベーションマネージャーが常駐し、事業の悩みを相談したり、アイデアを壁打ちしたりできます。長崎県、長崎市、県内大学などとの連携体制があり、行政の支援制度や大学との共同研究、支援機関にもつながりやすい環境です。中小機構が運営するため、経営、販路開拓、資金調達などの課題に応じて、専門家やアドバイザーにつなげることもできます。現在、D-FLAGには医療、環境、IT、食品などの企業が入居しており、日常の会話から相談や紹介、企業間連携が生まれることもあります。


D-FLAG内観およびD-FLAG入居者との対話風景
また、入居者は、一定の要件を満たせば、長崎県と長崎市による賃料補助を利用することもできます。例えば、21.84㎡の居室では、月額賃料92,510円に対し、創業5年未満で入居1年目または2年目の場合、補助後の負担額が月額30,704円となる例もあります。固定費を抑えながら、相談や支援につながる環境に身を置けることは、事業を続けていくうえで大きな安心材料になります。
D-FLAGは、賃料を抑えて入居できるだけの施設ではありません。挑戦を支える人がいて、必要な支援や新たな人とのつながりが生まれる。その環境で事業の成長に集中できることこそが、賃料補助の大きな意味だといえます。

8. 相談することから、挑戦は動き出す
起業に必要なのは、完璧な事業計画や特別な才能だけではありません。むしろ大切なのは、悩みや課題を一人で抱え込まず、周囲の力を借りながら一歩ずつ前に進むことです。
長崎には、挑戦する人を支えたいと考える人が、県、市、大学、金融機関、そして支援機関の中にいます。悩みが整理されていなくても、何を相談すればよいか分からなくても、まず誰かに話してみることで、次に進むための糸口が見えてくるはずです。 地方に求められる起業支援は、制度や資金を用意することだけではありません。挑戦する人を一人にせず、うまくいかなかった経験を次の仮説に変え、もう一度試せる環境をつくることです。D-FLAGは、その入口の一つです。長崎で挑戦する人が周囲の力を借りながら、何度でも試行錯誤を重ね、重ねながら前に進んでいく。支援機関の一つとして、そうした挑戦が生まれ、育ち、次の挑戦へとつながって積み重なっていくエコシステムづくりに貢献していきたいと思います。
~ まずは、話すところから始めませんか ~
D-FLAGへの入居を少しでも検討されている方は、「まだ事業計画が固まっていない」「相談内容をうまく整理できていない」という段階でも構いません。まずは現在の状況や悩みをお聞かせください。施設の利用イメージ、入居条件、支援内容などを一緒に確認しながら、次の一歩を考えていきます。長崎で挑戦したい方、事業を前に進めたい方からのご連絡をお待ちしています。
【お問い合わせ先】
ながさき出島インキュベータ(D-FLAG)IM室
〒850-0862 長崎県長崎市出島町1-43
TEL:095-811-6800 FAX:095-811-6801
公式ページ:https://www.smrj.go.jp/incubation/d-flag/