2024年10月27日、長崎~ソウル線の国際定期航空路線がコロナ禍を経て、5年7カ月振りに再開され、第1便が飛び立ちました。九州各県では既にソウル線が就航しており、長崎県が最後発での再開でした。また大韓航空としての就航は実に11年7か月ぶりです。初便には、長崎県や県観光連盟関係者、長崎経済団体訪韓団(長崎商工会議所連合会、長崎経済同友会)などが搭乗。10月28日には大韓航空など観光関係者を招いた「長崎~ソウル線運航再開記念レセプション 長崎の夕べ」が開催されました。
ソウル線の運航は月・木・土・日曜日の週4便体制となっており、月曜・木曜・土曜日は、仁川空港発・長崎空港行きが朝8:00出発、9:30到着、長崎空港発・仁川空港行きが朝10:30出発、12:30到着となっています。また、日曜日は仁川空港発・長崎空港行き14:40出発、16:10到着、長崎空港発・仁川空港行きが17:20出発、19:10到着です。
機材にはビジネスクラス8席、エコノミークラス174席、計182席仕様のエアバスA321neo型が使用されます。各座席には13.3インチの大型モニターを備えています。
長崎空港との距離は595kmと、関西空港(520km)や伊丹空港(550km)とさほど変わりません。所要時間は90分ですが、飛行時間自体は60分程度であり、料金も往復24千円からと、身近な外国といえます。因みに、仁川空港(第2ターミナル)からソウル中心部は60kmほどあり、空港鉄道(~ソウル駅、直通51分)、リムジンバス(70~90分)、タクシーなどを利用することができます。
2001年に開港した仁川空港は世界の100社を超える航空会社が乗り入れており、4本の滑走路を有する世界でも有数の国際空港です。航空スケジュールデータを扱うOAGの「OAG メガハブ空港2024」(世界の国際接続空港トップ50)によると、仁川国際空港はロンドン・ヒースロー空港、マレーシア・クアラルンプール空港、羽田空港、オランダ・スキポール空港に次ぐ世界5位にランクされています。
2023年実績をみると、発着回数は1日当たり924便、年間では337千回、旅客は1日当たり154千人、年間5,613万人に上ります。
また、2024年は10月までに発着回数307千回、旅客5,257万人(1日当たり1,010回、173千人)となっており、前年同期比便数が12.6%増、旅客が15.7%増となっています。
路線は北東アジア、東南アジア、米州、欧州、オセアニア、南西アジア、アフリカなど世界69か国に広がっており、仁川空港での「乗り継ぎ」利用客が直近1年(23/11~24/10)の乗降客6,898万人中、10.4%、716万人に上ります。このうち73万人が日本便となっています。
既に九州各県のほか全国25空港に仁川国際空港との定期航空路線があります。こうした国際ハブ空港と長崎空港が結ばれたことは、世界各国への海外旅行への利便性が高まることとなり、漸く長崎空港も世界につながるネットワークにアクセスできることになります。
ここで、韓国の概況をみておきましょう。
韓国の人口(2024年9月、統計庁)は5,125万人、そのうちソウルは935万人。さらに周辺の仁川市(302万人)、京畿道(1,368万人)を含めた首都圏としては2,605万人に上り、全人口の半分以上を占めます。首都圏への人口集中が進む中、韓国の人口は2020年をピークに減少傾向にあります。合計特殊出生率は低下が続き、2018年に1.0を割り込み、23年には0.72にまで低下しており、世界最低となっています。
経済面をみると、2023年の名目GDPは日本4.2兆ドル、韓国1.7兆ドル、一人当たり国民総所得は日本39,030ドルに対し、韓国35,490ドルですが、1人当たり名目GDPでは、韓国が35,563ドルと日本(33,899ドル)を5%近く上回っています。半導体、自動車、石油製品、船舶等、などを中心とした輸出立国であり、輸出依存度(輸出額/GDP、2023年)は37%と日本(17%)とは大きな違いがあります。近年のトピックスとして化粧品が伸びており、21年には仏、米に次ぐ世界3位となっています。
雇用面では、失業率が24年8月には2.4%に低下しているものの、若年層(15~29歳)では4.1%と全体の2倍に達しており、大きな社会問題となっています。
日本との人の交流では、23年は訪韓日本人が232万人、訪日韓国人が695万人、合わせて927万人となっており、24年は1,000万人超となることが見込まれています。為替相場も近年、ウオン高円安傾向にあり、追い風となっています。24年は20年平均に比べ20%程度のウオン高で推移しています(*20年平均1ウオン=0.09円 ⇒ 24年10月0.11円、三菱UFJRC)。
観光庁によると、「海外旅行者のほとんどが訪日旅行経験者である成熟市場」とされる韓国ですが、訪日外国人消費動向調査(23年、観光庁)によると、性別は男性がやや多く54.2%、年代では男女とも20歳代、30歳代の若年層が全体の7割近くを占めています。訪日回数は40.9%が4回以上とリピーターが多く、滞在日数は4~6日が67.4%、旅行形態は個人手配が86.2%となっており、日本行きは手軽・身近な海外旅行であることがわかります。食べもの、買い物、温泉、ゴルフ、各種体験・サービスなど、色々なコンテンツをリピーターとして楽しんでいるものとみられます。
消費面をみると、23年の訪日客の旅行支出(一般客)は、全体で一人当たり213千円となっていますが、韓国は106千円と半分程度。支出項目では宿泊費35千円、飲食費29千円、買い物代27千円、娯楽等サービス費6千円などです。支出額が小さいのは、滞在日数が4.7日(泊)と全体(10.1日)の半分以下となっていることが影響しています。
次に長崎県と韓国間の観光交流をみましょう。長崎県観光統計によると、韓国人の延べ宿泊客数は、2018年には対馬~釜山航路を有する対馬市を中心に518千人に達しましたが、19年7月の輸出管理に係る関係悪化、20年のコロナ禍で激減していました。ようやく23年の水際措置解除を受けて回復傾向にあり、23年は延べ宿泊客数が189千人(宿泊客実数136千人)となっています。これは外国人延べ宿泊客数全体の34.6%を占め、国別シェアは最大です。その宿泊地をみると、対馬~釜山航路が再開した対馬市が84千人、長崎市が78千人となっており、以下、佐世保市17千人、雲仙市3千人、平戸市2千人、五島市・新上五島町にも計1.2千人が宿泊しており、県下全域に広がっています。
ソウル線再開を機に、2つの世界遺産をはじめとした観光資源、食、温泉、多くのゴルフ場など長崎県の魅力を、ソウル・仁川空港からのインバウンド拡大につながることが期待されます。
観光庁によると、韓国でのゴルフ市場は、コロナ期に屋外スポーツとして若者・女性まで競技人口が拡大し、21年には564万人(19年比94万人増)となっています。ゴルフ場数が500か所(日本の約1/5)と少なくプレー料も高いうえ、冬季には不向きとあって、手軽な海外ゴルフ旅行需要は大きく、日本へのゴルフ旅行が増加しています。長崎県でもゴルフツアーの拡大につながることが期待されます。
長崎県と韓国との貿易についてみると、23年実績では輸出が46.9億円(前年比6.1%減)、輸入が162.1億円(同2.1%増)と入超となっています。貿易全体に対する構成比は輸出の2.5%、輸入の4.0%にとどまっており、取引額は多くない状況です。
なお、主要品目は、輸出が「魚介類及び同調整品」(20億円)、「一般機械」(16億円)、輸入が「鉄鋼」(119億円)と「鉱物性燃料」(11億円)となっています。
ソウル線再開に当たり、ソウルと長崎で講演されたジェトロソウル事務所長・前川直行氏は、最近の日韓関係で交流拡大のトレンドとして、次のような点を挙げています。
〇人の交流が急回復。23年は訪日韓国人、訪韓日本人はともに国別で最多。 〇日韓のスタートアップ交流への関心が拡大。23年は延べ300社来日、24年5月K-スタートアップセンター開所。日本側も韓国への関心上向き。 〇韓国向け食品輸出が近年右肩上がり。酒類が急伸、日本酒・地酒、ビール、焼酎など360銘柄1500品目以上が流通。 〇日式料理店(韓国人経営の日本料理店)が人気拡大、日本の外食チェーンも進出し人気。 〇漫画・アニメ、楽曲など日本コンテンツの人気・関心が高く、日本アーティストのライブも増加。 |
また、こうしたトレンドを生かした日韓ビジネスの方向性としては、つぎのようなポイントを指摘しており、長崎県にとっても参考になるものでしょう。
〇海外で協力:食料・エネルギーを輸入し、製造業がグローバルサプライチェーンを構築する日本・韓国が海外で協力。バッテリー、水素・アンモニア等のプロジェクト 〇イノベーション:日韓共通の社会課題、エネルギー、食糧、人口減少、気候変動等に取り組む。 〇インバウンド連携:増加する訪日観光客向けの物販、越境eコマース活用で輸出拡大。 インバウンド(短期)からワーケーション(長期)への転換、スタートアップ、企業の可能性。 〇コラボでグローバル:コンテンツ、ゲーム、化粧品、食品など身近な分野で日韓間のコラボの可能性。互いの強みを掛け合わせて、グローバル市場に挑戦。 |
世界とのネットワークという観点でみると、長崎県は既に国際海上コンテナ航路が長崎港と韓国・釜山港の間に週2便(月:高麗海運/342TEU積載船、火:長錦商船/550TEU積載船)が就航しています。釜山港は世界各地に航路を有する世界7位(22年取扱量、国交省)の国際ハブ港湾であり、長崎港も釜山港を通じて国際物流ネットワークにつながっています。
今回、この海路に加え、ソウル線再開で空路でも国際ハブ空港とつながったことから、今後、この国際人流・物流ネットワークにアクセスできるというインフラを生かしたビジネス・交流拡大が期待されるところです。
ソウル線が再開され1月が経過しましたが、訪韓客数を伸ばすことが課題のようです。まずは利用促進による路線の維持、ひいては便数増につなげることが何より重要です。食、化粧品、エステ、K-POP、世界遺産など幅広いコンテンツは大きな魅力であり、現在は福岡空港を利用している人も多いものとみられ、こうした需要を長崎~ソウル線で取り込むことも期待できます。
リサチャンアンケート(24年10月、回答403人、参照:ながさき経済web、https://nagasaki-keizai.jp/survey/researchan/9663)では、長崎県からの海外旅行には「福岡空港まで行かなくても、長崎空港が使えるようになる」とのコメントが多く挙がっています。
また、同アンケートでは6割がソウル線再開を「良かった」と歓迎し、4割が「利用したい」と回答しています。また、利用を増やすには「利用しやすい料金の旅行商品を増やす」(61.3%)、「利用しやすい運行時間にする」(46.2%)ことを挙げています。
こうした意向をみると、潜在需要は相応にあり、これを顕在化することができるよう、地域を挙げて取り組むことが重要でしょう。
なお、長崎県の発表によると、韓国南西部の務安(ムアン)国際空港~長崎空港を直行で結ぶチャーター便が、12月10日から25年3月29日まで週3往復(火・木・土)運航されます。航空会社は済州航空(LCC/格安航空)で、主に韓国からの団体ツアーが対象です。是非、上海線、ソウル線に次ぐ定期航空路線となることを期待したいと思います。
(2024.12.02 中村 政博)