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長崎経済研究所

2025年4月25日にオープンした「つきまち長崎横丁」の機能と狙い

つきまち長崎横丁推進協議会座長 

 朝長 孝至

 「長崎に活気あるたまり場を作りたい」という想いのもと、横丁プロジェクトは2019年4月、長崎文化放送(以下NCC)で社内横断プロジェクトを結成したことから全てがスタートしました。2023年5月、NCCと長崎市が中心となり、「つきまち横丁推進協議会」を設立。3回の実証事業を経て、2025年春に常設の横丁を設置することが決定しました。

つきまち長崎横丁(以下、つき横)の機能と狙いは

①見て和華蘭、食べて和華蘭を感じる空間にする。

②もってこいメシ(無料の持ち込み制度)による市場との融合、地産地消を促進する。

③もってこいステージ(無料)の設置による、文化芸術の発信。集客装置としても機能させる。

④長崎県産のメニューと県産酒を店舗に義務づけ「食の宝庫長崎を食べられる場、ランドマーク」にする。

⑤つき横は「ゼロ次会の場所」。昼から営業することで観光客などの昼需要に応え、周辺の街を面的に盛り上げる。

⑥「今日は誰と乾杯する?」のキャッチコピーに代表されるように、食とコミュニケーションの集積地を目指す。

⑦超コアターゲットは20〜40代の地元女性。この層が核になって来場することで、他の層が追随してくる。また、「地元に愛される場所」になれば自然と観光客やインバウンド客がついてくる。

以上、主に7つとなります。

①見て和華蘭、食べて和華蘭を感じる空間にする。

 最も重要視したのは美術です。「日本で唯一の場所」にしなければ「SNS映え」の時代に集客はできなく、「共有と拡散」がなされません。プロジェクトの開始当初から「長崎は和華蘭文化というが、一目でそれを感じる空間が無い」と思っていました。実証事業の段階から和の要素は本物の竹を使った「竹あかり」、中華の要素は「中華提灯」という美術はフィットしていました。ただ、いざ本格的なイメージパースを作成しようとすると、蘭の要素をどのように配分するかに悩みました。そこで私は費用面からもプロによるイメージパースは諦め、パワーポイントでパース的な美術を考えはじめました。そこで出た答えは「全てが1:1:1」である必要は無く、蘭は機能的に存在させれば良いという結論に至りました。

※パワーポイントで作成したイメージパース(商標登録出願中)

 また、和の要素には竹あかりに加え、和傘を中央部分に吊るしライトアップしました。和傘の集合体は「島原水祭り」に見られるように、日本人の心を揺さぶります。また、提灯も日本人のアイデンティティに深く刻まれているとの仮説がありました。夏のお祭りなどで赤い提灯を見るとなぜかワクワクする。この提灯はどちらかというと和寄りのデザインのものを中華街の「中国貿易公司」さんに通い詰め選びました。その理由は長崎には韓国、中国、欧米の順番にインバウンド客が来るということを知って以来、「せっかく日本に来てもらったのだから、和を感じてもらいたい」という想いがあったからです。

 提灯は当初、皆から「200個も吊り下げは不可能だ」と言われましたが、スプリンクラーの散水障害を避け、誘導灯の視認性を確保しながら、(株)伍式の木村社長にわがままを言って、一つでも多くできるだけ隙間が無いように吊り下げてもらいました。その理由は幻想的な空間を作りたいという想いと、「どこで撮影しても映える」必要があったからです。

 蘭の要素は元々あった、軒先の屋根のような部分にステンドグラスを入れて完成しました。このステンドグラスはアート・ワン(株)の一ノ瀬社長に制作してもらい、どこかに「ハート」と「出島」が隠されているという遊び心もとり入れて頂きました。

 また、1階のエントランスも同様に和華蘭要素をとり入れて、「マグネット効果」を狙いました。地下という不利な場所では1階の重要性は言うまでもありません。「食べて和華蘭」という課題はテナントの出店条件に「長崎産の魚か、肉、加工品を使ったメニューを必ず出すこと」を入れることでクリアしました。

②もってこいメシ(無料の持ち込み制度)による市場との融合、地産地消を促進する。

 当初、この制度に関しては無料で持ち込むことは不可能であろうと思っていました。当然、テナントは家賃を払っており、普通に考えればできない制度です。この制度に関しては、古川町の私の自宅で副座長の柴崎隆好さん(長崎市)と同じく副座長の永石一成さん(FデザインNAGASAKI(株))との3人で何度も議論しました。柴崎さんの熱い想いがありながらも、飲食店の目線からは不可能という永石さん。しかし、話しているうちに永石さんが「お店で必ず1ドリンク、1フードをオーダーするというルールにすればお店にとっても損はしないのではないか」というアイデアに辿りついたのです。結果、もってこいメシを実施したことで、市場の賑わいの一助にもなりました。「売上が上がった」という声も複数の市場店舗さんから頂いております。

③もってこいステージ(無料)の設置による、文化芸術の発信。集客装置としても機能させる。

 私はギターや音響などの音楽が趣味なのですが、長崎大学に通っていた20数年前から比べると明らかにライブハウスやアーティストが減っていると感じていました。地下という利点を活用し、NCCが運営すれば無料のステージができる。そのことでアーティストの発信の場ができる。そんな想いから設置に至りました。もちろん、その場に訪れたアーティストやファンが情報を拡散し、そのまま客としてつき横で消費することも期待できます。

④長崎県産のメニューと県産酒を必ず店舗に義務づけ「食の宝庫長崎を食べられる場、ランドマーク」にする

 ②でも触れた「食べて和華蘭」という課題はテナントの出店条件に「長崎産の魚か、肉、加工品を使ったメニューを必ず出すこと」と、県産酒に関しても「3種以上メニューに入れること」を入れて皆さんにご協力をお願いしました。

つき横は「ゼロ次会の場所」。昼から営業することで観光客などの昼需要に応え、周辺の街を面的に盛り上げる。

 つき横は昼の11時半から22時までの営業で、「ゼロ次会の場所」と表現しています。つき横を起点として浜の町、思案橋、鍛冶屋町、中華街などに回遊させ、街を面的に盛り上げて長崎を元気にしたい。その想いが込められています。

「今日は誰と乾杯する?」のキャッチコピーに代表されるように、食とコミュニケーションの集積地を目指す。

 私はNCC東京支社時代に「なぜ東京ですら、賑わっている所とそうでないところがあるのだろうか」と考えていました。辿りついた答えはハコものに頼らない「人々がコミュニケーションする街」です。その想いからあえて狭い空間を作り出しています。また、店舗と店舗の壁を一部カットしている部分があります。友人・恋人・家族ができる街=離れられない街。という自分なりの仮説もあります。

超コアターゲットは20〜40代の地元女性。この層が核になって来場することで、他の層が追随してくる。また、「地元に愛される場所」になれば、自然と観光客やインバウンド客がついてくる。

 「長崎は観光立県」と言われて来ましたが、私は「住む人が幸せになる街」が真の良い街だと考えていました。ですから、地元に愛される、普段使いしてもらう場所を目指しました。ブランドガイドラインは20〜40代の地元女性をターゲットに作成し、CMや紙、デジタル媒体などを展開していきました。

 以上が「つき横」の機能と狙いです。心配していた売上はゴールデンウィークに限って言えば、東京の一等地並みの売上を叩き出しています。もちろん課題も山積しています。その一つが「昼需要」です。平日の昼営業は簡単ではないと思っています。儲からなければ店舗は昼営業を止めざるをえません。市民県民の皆さんの応援が不可欠です。

 放送局と行政がタッグを組んで立ち上げるという非常に稀有なパターンでオープンした「つきまち長崎横丁」。長崎をなんとか元気にしたいという想いが込められています。至らぬこともあるかと想いますが、皆様のご協力あってのつき横です。何卒、引き続きご支援と利活用の程、よろしくお願いします。

地下1階中央部分
ひかり亭とあんくの間の横丁らしい通路

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